「クリスマスって、親しい人達でプレゼント交換する日なんだってば?」
 街角からジングルベルが聞こえるようになった頃、不意にかけられた問いに違うと言い切れる人間は、7班にはいなかった。
 恋人達がらぶらぶに過ごす日、なんてものがどういうわけだか定着して久しいが、それに比べればまだ元の意味に近いような気がするし。
 「いいなあ、すっげー楽しそうだってばよ」
 何より、青い瞳をきらきらさせてそんな事を言われた日には、頷かないでいられようか。
 「じゃ、クリスマスには皆でプレゼント持ち寄って交換しよっかー」
 「ホント?! やったあ!」
 「・・・・」
 一部やたらと盛り上がる一方で、胡乱そうに眺める黒髪の少年と薄紅色の髪の少女。
 特に少年の方はひどく何か言いたげではあったのだが。
 「えへへー、オレめちゃめちゃ楽しみだってばよ!」
 これ以上ないって程の全開の笑みに眩しそうに目を細めて、口を閉じたのだった。






 

 賢者の贈り物








 クリスマスといっても、それだけで任務から解放される理由にはならない。
 浮かれ騒ぐ街の様子を尻目に、相変わらずの単純労働(雑用とも言う)に勤しむのはいつもと変わらぬ日常の延長で。
 それでも、普段よりはかなり早く仕事も上がって、整列する子供達をカカシはおもむろに見渡した。
 「今日の任務はこれで終わり・・・つーことで」
 すちゃっと懐から4枚の細長い紙を取り出す。
 「先生、くじ作ってきたから。各自引いて、書いてある相手にプレゼントを渡すんだぞ」
 「わーい、待ってましたってばよ!」
 (・・・茶番ね)
 (・・・馬鹿馬鹿しい)
 はしゃぎ回るナルトとは対照的に、サスケとサクラは白々とした表情を浮かべる。
 が、二人とも心の声を表面に出すことはしない。
 「誰のもらえるのかなあ。サクラちゃんもサスケも早く引くってばよ」
 心底嬉しそうに顔を輝かせるナルトにサスケの表情がふっと緩み、サクラも苦笑混じりの笑みを見せる。
 ようやくくじに手を伸ばしつつ、それでもカカシにちろりと胡散くさそうな目を向ける事は忘れずに。
 それに気付かないカカシではない筈だが、一向に気にした様子もなく、相変わらず顔半分隠れたマスクの下で満面の笑み(多分)を浮かべている。
 「よーし、皆引いたな? じゃあ、一斉に開けるぞ」
 




 「サスケだってば」 
 「・・・ナルト」
 「・・・カカシ先生ね」
 「先生はサクラな。それじゃあこーうかーん!」




 高らかなカカシの声と共に、4人が綺麗に二組に分かれる。
 すなわち、ナルトとサスケ、カカシとサクラに。
 「・・・・むー」
 「何ぼーっとしてんだよ」
 さんざん騒ぎまくっていたナルトのこと、早速催促されるかと思ったら、眉間に似合わない皺なんか寄せつつ考え込んでいる素振りにサスケは怪訝な目を向けた。
 「サスケェ、なんか、このくじ変と思わねえ?」
 「オレからってのが気にくわねえなら、やめてもいいが?」
 「そ、そんな事言ってないってばよ! たださあ・・・」
 渡す人と受け取る人、きっちりペアになってるなんて、出来過ぎてるような気がする。
 訝し気に首を捻るナルトに、サスケはあっさり言った。
 「偶然だろ」
 んなわけねえだろ。
 同時ツッコミを入れてる内なるサスケには、当然ながらナルトは気付いていない。
 「うーん、そっかなあ? ・・・ま、別にいいけど。サスケのもらえて嬉しいし」
 これまたあっさりと矛先を収めるナルトに、サスケはこっそりほくそ笑む。
 『みんな』で『わいわい楽しく』という言葉にナルトはひどく弱いから、この茶番のようなプレゼント交換に敢えて反対しなかったけれど。
 目当ての相手以外にプレゼントを渡す気も、そいつが他人に渡すのを容認する気も、これっぽっちもない。
 言い出しっぺの上忍も、対象は違えど同じ事を考えるだろう事は、容易く予想はついた。
 (あの野郎がやらなければオレがやってただけだしな。イカサマ)
 想い人から首尾良くプレゼントをせしめるための、ごくささやかな、けれど効果絶大な策略。
 遺憾ながら殆ど同じ思考回路を持つ上忍に、今日だけは感謝してやっていいかと思う。
 ちらりと傍らを眺めれば、グレーのマフラーを巻いたカカシと赤い耳飾りを付けたサクラ。
 「中々あったかいぞ、サクラ」
 「手編みじゃないんだけどね」
 「じゃ、それは来年ね」
 「な、何言ってるんですか!」
 落ち着いた色合いのマフラーはカカシの銀髪によく映えて、濃紅色の薔薇の耳飾りはサクラにとても似合っている。
 サクラの方も、サスケとは違う経過(おそらくその頭脳とこれまでの経験)を辿って同じ結論に至ったのだろう。
 敢えて引っ掛けられてるあたり、乙女心とは中々微妙なようだが。
 「でもさあ、やっぱちょっとおかしいような気も・・・」
 なおも首を傾げるナルトに、サスケさらりと一言。
 「いらねーなら持って帰る」 
 「だからあ、そんな事言ってないってば! もー、サスケほんっと短気だってばよ」
 ぷうっと頬を膨らませながら、慌ててサスケの袖を掴んで引き止めるナルト。
 つくづくこいつ、単純で良かった。
 しみじみと実感するうちはサスケだった。




 「なあなあサスケ、開けてみてもいい?」
 サスケから手渡されたのは、妙に大きな箱。
 持ってみると結構重量もあって、何だろうとナルトは首を傾げた。 
 「気を付けて開けろよ。間違っても落とすんじゃねえぞ」
 「落っことすとどうなるってばよ」
 「爆発する」
 「・・・・!」
 びくうっと一瞬にして全身硬直。
 だらだらと冷や汗を流しつつ、手の中の物を放り出すべきか死守すべきか葛藤に襲われているナルトを見遣って、サスケはクッと笑った。
 「冗談だ」
 「・・・サスケが言うと冗談に聞こえないってばよ」
 唇を尖らせつつ、がさがさと包みを開けてナルトは目を丸くした。
 箱の中に鎮座していたのは、二つのどんぶり。
 しかも同じデザインで、オレンジと藍色の色違いだったりする。
 「サスケ、これって・・・」
 「見て分からねーか。ラーメン用のどんぶりだ。おまえ、鍋から食うのいい加減やめろ」
 「何で二つ?」
 「オレの分」 
 「それ、プレゼントってゆう?」
 「実用的だろ。こいつにも丁度いいし」
 言いながらサスケは手にした袋を指し示す。
 ナルトからのプレゼント。
 やけにかさばった袋の中には、色とりどりのカップラーメンやらインスタントラーメンやら。
 ナルトの好きな味噌味やらカレー味やらのこってり系に混じって、サスケ好みのあっさり塩味系も少なからず入っている。
 ナルトだけは、特に相手を想定してプレゼントを選んだ筈はないのだが、無意識なのか何なのか。
 『サスケと一緒に食べる事』を考えながら選んだのは明白で。
 「そういえばそうだってば。ホント丁度いいってばよ」
 ぽんと手を叩いて、ナルトは納得したように何度も頷く。
 サスケは満足そうにそれを見ると、ナルトが大事そうに抱え持つ箱をひょいと取り上げた。
 「何すんだってば!」
 「これはオレんちに置いとく」
 「何で!」
 「おまえんちに置いてたら、絶対割る」
 割るんじゃないか、とか、割るかもしれない、みたいな疑問形だの仮定形だのカケラも見せない断言に、ナルトはぐっと詰まった。
 何しろ、これまでの実績を考えると反論の余地などこれっぽっちもない。
 ないのだけれど、
 「・・・でも、オレがサスケからもらったんだから、オレのだってばよ・・・」
 しょんぼり。
 悔し気に唇を噛んで俯くナルトの髪を、サスケがくしゃっとかき回した。
 「早とちりすんな、ウスラトンカチ。誰も取り上げるなんて言ってないだろ」
 「でもサスケ持って帰るって言った!」
 「預かっとくだけだ。・・・こいつもあることだし、ラーメン食べたくなったらうちに来て食えばいいじゃねーか。オレ一人じゃいつまで経ってもなくならねーよ、この量は」
 ラーメンの詰まった袋をこれ見よがしに振って見せると、ナルトの顔がぱあっと明るくなった。
 「そっかあ! サスケ、あったまいー」
 満面の笑みを浮かべるナルトに、サスケも会心の笑みを見せる。
 何しろナルトのことだから、ラーメン食べたいなんて毎日でも言うに決まってる。
 栄養状態が気になると言えば気になるが、その辺は副食でカバーしてやれば、しばらくなら大丈夫だろう。
 「んじゃ、早速これから食うか」
 「え、今から食べに行ってもいいの?!」
 「食いたくねえか?」
 「食うってばよ〜」
 そんな思惑なんかこれっぽっちも覗かせない涼し気な顔で宣えば、あっさりナルトは引っかかった。
 呆れたように見送るカカシとサクラにばいばいと手を振りながら、先行くサスケを追いかける。
 「サスケ、今日は太っ腹だってば」
 「今日は、って何だよ」
 「だっていつもはラーメンばっか食うなっていうくせに」
 一瞬ちょっとだけヒヤリとしたが、相変わらずのポーカーフェイスで押しとどめて。
 「・・・まあ、クリスマスだからな」
 「ならさ、毎日クリスマスだといいな!」
 「バーカ」
 こつんと軽く指で額を弾くと、何すんだってばと文句を言いつつ、ナルトはぎゅうっとサスケの腕にしがみついた。 


 
 

 「でもさでもさ、オレ達二人とも似たようなモン選んでんのな。なんか不思議だけど・・・ちょっと嬉しい気もするってばよ」
 ほんのり頬を赤らめながら、ナルトがへへ、と笑う。
 いや、おまえの考える事は大体分かるし。
 でなくとも、スーパーのラーメン棚の前でああでもないこうでもないと悩みまくる姿を見かけたのは一度や二度じゃなかったし。
 なんて事は賢明にもおくびにも出さず。
 「だってクリスマスってのはカミサマの祭りだしな」
 サスケは素早くナルトを引き寄せる。
 こつんと額を合わせて、冷たい唇にキスひとつ。
 寒さだけじゃなく真っ赤になったナルトの耳元で、小さく囁いた。





 「神様ってのがホントにいるんなら、誰が誰にプレゼントを渡したいかってことくらい、分かって当然だろ」
 
  


 





 一体どうした何があったんだサスケ。
 この余裕っぷり、サスケとして何かが激しく間違ってるような気がしてなりません。
 でもさよにはウケたからいいか。



クリスマスにラーメン・・・・・・・・・・うーん。で、その後ケーキ食ったりすんの?????
お腹に悪そうだあ。(さよ)


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