「どうしたってばよ」
 軽く揺さぶられて、ゆっくりと意識が覚醒する。
 目の奥がやけに熱くて、目蓋がなかなか持ち上がらない。
 「悪い夢でもみた?」
 小さな手が優しく頬を撫でた。
 そっとその手を取ると、掌は暖かく濡れていて、初めて自分が泣いていたのに気付く。
 ようやく目を開けると、金色の髪の子供が心配そうにこちらを見ている。
 「ナルト・・・・」
 みっともないところを見られた恥ずかしさよりも、安堵感が胸を浸し、サスケは微笑んだ。
 安心したようにナルトも笑うと、甘えるように胸元に潜り込んで、袖でごしごしとサスケの頬を拭う。
 「そんなにヤな夢だった?」
 「・・・・ああ」
 深い深い闇。
 ゆらめく白い炎。
 透ける月光の髪。
 濡れたような紅い、獣の。


 『おまえがオレを・・・・』


 振り切るように、腕の中の身体を抱き締める。
 震える指先を、ひとまわり小さな掌が優しく包み込んだ。
 「悪い夢は人に話すといいってばよ」
 おまえが教えてくれたんだってば、と空色の瞳が覗き込む。
 「おまえを」
 何かが喉に絡みつくようでひどく声が出しづらい。
 包み込んでくる掌の暖かさに、ようやく掠れた声を絞り出す。
 大丈夫、あれは夢。
 現実じゃない。
 「殺した、夢」
 
 
 一瞬だけ瞳をまたたかせて、ナルトは少し困ったように首を傾げた。
 「別に、オレ怒んないよ?おまえになら殺されても」
 「・・・・オレが嫌なんだよっ」
 叫んで、肩口に顔を埋める。
 細い指が、ゆっくりと黒髪を梳いて。
 宥めるような感触に、ほっと息を吐いた。
 「おかげで、百年もおまえを探す羽目になった」
 「殺したのに、探すの?」
 問いかける声に顔をあげようとしたが、頭ごとぎゅっと強い力で抱え込まれてかなわない。
 母親のようにサスケを抱き締めて、ナルトは静かに言葉を続ける。
 「どうして?」


 償いたかった?
 裁かれたかった?
 それとも?


 ・・・・違う。 
 絶望、呪い、後悔、悲嘆。
 取り囲む闇よりなお深くどす黒いそれらを心の底に封じ込めて、
 最後に残ったものは。


 「・・・・会いたかったから」


 ただひとつの望み。
 百年の孤独を彷徨っても、
 それだけを望んだ。
 
 
 頭を抱え込む力が緩む。
 「大丈夫!おまえがみつけられなくても、オレがみつけてやるってばよ」
 顔を上げた先には、にっこり笑う愛しい子。
 屈託のない笑顔に、サスケは軽く頭を振って夢の残滓を振り払った。
 あれは夢。
 闇の中、彷徨っていたのは、夢の中の自分。
 「・・・・何言ってやがる。オレにできないことがドベに出来てたまるかよ」
 「そんなことねーもん、ちゃんとみつけるってば!」
 じたばたと暴れる身体を押さえつけ、金色の頭に顔を埋めると、微かにお日様の香りがする。
 それだけでサスケの心は満たされていく。
 そう、これが現実。
 このぬくもりだけが。






 「みつけるってばよ」
 金色の子供が呟く。
 傍らの少年を起こさないように、小さな小さな声で。
 「何度でもみつけられるってば。だって・・・・」 
 今は穏やかな顔で眠る少年の頬を愛しげに撫でる。
 「ちゃんと、こうやって、みつけたよ」
 カーテンの隙間から僅かに差し込む月光が、微笑む子供の瞳に反射した。
 薄闇に浮かぶその色は、
 真紅。






 みつけたよ。
 つかまえた。
 ・・・・もうはなさない。
 







 というわけで蛇足です。蛇足の方が長いって何事。
 本編の後書きでも書きましたが、設定とか前後とかまったく考えてないので、これもオチのひとつということで。
 ある意味、もっともスタンダードなオチですね。・・・オチてませんが。
 ちなみにさよは「110歳過ぎたサスケがボケて夢を見ている・・・ってオチだったらイヤ」って言ってました。
 ・・・そうか、そういうのもアリか。



  

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