しろつめくさの花が咲いたら











 
 四つ葉のクローバーを探しに行きたいと言ったら、サスケはひどく変な顔をした。
 もっとも、変な顔と言ってもこの場合、また突拍子もないこと言い出しやがってこのウスラトンカチとでも言いたげな顔という意味で、決して指を差して笑い出すような珍妙なものになったと言うわけではない。
 むしろ、そのどこか小馬鹿にしたような表情は彼のやたらと整った造作にはとてもよく合っていて、これだからムダに顔のいい奴はムカつくってば、とナルトはこっそり考えた。
「なんで、そんなもん欲しいんだ?」
「オレじゃないってば。サクラちゃんとカカシ先生にあげるんだってば」
「……なんでまた、あいつらなんかに」
(あ、機嫌悪くなった)
 仏頂面が大変似合いのうちはサスケは、実のところ結構なやきもち焼きで心が狭い。
 ナルトが誰か他の相手の話をするだけで露骨に不機嫌になるし、反対に二人っきりになったりするとびっくりするくらい優しい顔になったりもする。
 それはあんまりあからさますぎて、クールで冷静なNo1ルーキーって一体誰のことだと、時々ナルトは思う。
 感情もろ出しな上に裏表なさすぎと度々評される自分よりも、ひょっとしてサスケの方がすっごく分りやすい奴なんじゃないだろうか。
 つい昨日、カカシとサクラに向かってそう話したら、彼らは揃って目を丸くした後、やってられないと言うように肩を竦めた。
『そんなこと言えるの、あんただけよ』
『まあ、あれだな。愛だよ、愛』
 なまぬるーく向けられた視線にナルトとしてはとってもいろいろ言いたいことがあるような気もしたけれど、真っ赤に染まった頬と、ぷしゅっと茹で上がった頭では、反論なんか考え付かなくて。
 たとえ考え付いたところで、この最近とみに似てきた上忍と少女相手には、片っ端から打ち落とされるだけだということは予想できたので、結局何も言えないまま。
 それでも、
『幸せで何よりだねえ』
『ほんと、ちょっとは分けなさいよ』
 苦笑交じりの言葉はとても優しくて、ナルトはちょっぴり申し訳ない気持ちになった。
 幸せってどういうことかよく分からないけれど。
 好きな人に好きと言ってもらえて、ずっとずっと一緒で、毎日がとても楽しくて朝が来るのが楽しみで。
 それが幸せと言うならば、そうなれたのはきっと彼らのおかげでもあるから。
 だから分けられるんだったら、沢山分けてあげなくちゃ、とナルトは決意した。
 そこでどうして四つ葉のクローバーになるんだと、その思考の過程をサスケが知ったならば、即座に突っ込んだに違いない。
 単に以前、サクラが四葉のクローバーを持ってると幸せになれると話していたのを覚えていて、あんなに頭がよくて物知りのサクラちゃんの言うことならきっと本当なんだと、ナルトが思い込んでいるだけの話ではあるが。
 が、さすがにナルトもカカシたちとの会話をすべてサスケに話すのは気恥ずかしかったので、適当にごまかすことにして。
「だって先生とサクラちゃんに幸せ分けてあげたいんだってばよ」
「分けられるほど幸せなのかよ、てめえは」
「へ? サスケは幸せじゃないの?」
 問い返すと、不意にサスケは俯いた。
 そうすると長い前髪がばさりと顔に落ちてきて、ナルトの目にはその表情が映らなくなる。
「サスケ?」
 訝しく思って覗き込むナルトからサスケは慌てたように顔を背け、そのままの勢いで歩き出した。
「どしたんだってばよ、サスケ」
「四つ葉、探したいんだろ。心当たりあるから、連れてってやる」
「え、ほんと? やったラッキー」
 思いがけない情報に小躍りして、何故かは知らないがサスケの機嫌が直ったらしいことも嬉しくて、はしゃぎながらついていくナルトはとうとう気付かなかったけれども。
 不自然な程顔を逸らしながら歩くサスケの表情を、もしもカカシとサクラが見たならば。
 分りやすいって本当だったんだと、したり顔で頷くだろうことは間違いなかった。





「うっわー、すっげー」
 サスケが言うところの心当たりとは、里外れの野原辺りかと思いきや、意外にも住宅街の真ん中にある公園だった。
 おそらく付近の子供達が遊び場なのだろうそこは、敷地の半分程には様々な遊具が置いてあり、もう半分は広場になっている。
 もっとも今はどちらにも人っ子一人いなかったが。
 正午過ぎのこの時間帯、大抵の子供たちはアカデミーに行ってるだろうし、また、就学年齢に達しないような幼い子供はこの辺りにはいないのだろう。
 広場の部分は一面の白詰草で覆われていて、思わずナルトは歓声を上げた。
「こんだけあればきっと見つかるってばよ」
「つーかほら、そこにあるぞ」
「え、どこどこ?!」
「おまえの足元」
「うわ、ほんとだー」
「そっちにも」
「え、マジ?! ちょっと待てってば」
 嬉々として摘み始めていたナルトは、慌ててそこらに視線を凝らした。
 するとあるわあるわ、ほんのちょっとその辺をかき分けるだけで、わらわらと四葉どころか中には五葉なんてものまで生えている。
「……なんか、こんなにあると気色悪い」
 てゆーかご利益薄そう。
 気を削がれてナルトが呟くと、そうだなとサスケが頷いた。
 それから不意に、悪戯めいた目になって。
「ここの噂、知ってるか?」
「噂? 何だってば、それ」
 面白い話でも聞かせてもらえるのかと目を輝かせるナルトに、サスケはおもむろに話し始めた。
「ここは昔、ある一族の屋敷があったんだと」
「へえ、随分大きいお屋敷だってばよ」
「医療忍術で名を上げた、そこそこ羽振りのいい一族だったらしい。それで」
 医療忍術には多大な知識と微細なチャクラコントロールが必要だが、もちろん通常の医療にかかるような薬草にも詳しくなくてはならない。
 当然ながらその一族も独自の薬草園を抱え、そこで様々な実験を重ねていたという。
 最初は、回復剤とか興奮剤とか毒薬とか、忍の里としてはありがちな研究ばかりだったらしいが、そのうち、それだけでは飽き足りなくなったらしかった。
「そ、それで……?」
「化学薬品ってのに手を出したらしいな」
「カガクヤクヒン?」
「たとえば、ほんの少しこぼしただけで爆発が起こる薬、とか」
「す、すっげー! そんなの本当にあったのかってば?!」
「知らねえよ。ただ、ある時、屋敷は原因不明の爆発炎上。家も人間も木っ端微塵で何も残らなかったらしい」
「うえ〜、ヤな話〜。…けど、それと四葉のクローバーと何の関係があるってばよ?」
 問いかけに、サスケはちろりとナルトを見た。
 何だかすごく楽しそうなのは、絶対気のせいじゃないと思う。
「四つ葉が何で喜ばれるかって、三つ葉に比べて数が少ないからってのは分るよな」
「あったりまえだってば」
「つまり、クローバーの基本は三つ葉で四つ葉は変異種、つーか奇形ってことだ」
「キケイ?」
「つまり、ここのクローバーにはとんでもなく異常なものが多いってこった。で、何でそんな異常が起こるかっていうと、この場合土が汚染されたからってのがありがちなパターンだな」
「…………もしかして、さっきの、爆発するクスリ?」
「珍しく聡いじゃねえか。まあ、それだけじゃないかもしれねーけど」
 それまでにどれだけのアヤシゲな実験を繰り返し、その廃液を垂れ流してきたか分ったもんじゃない。
 淡々と続けるサスケに、ナルトは気味悪そうに手の中の四つ葉を眺めた。
 さっきはあんなに喜び勇んで手にしたものだけれども。
「そ、それって……ホント?」
「さあ?」
 が、返ってきたのはいっそ白々しいような肩透かしの言葉。
「またオレをからかったのかよ、バカサスケ!」
 あんまりといえばあんまりな話に、ナルトは癇癪を爆発させた。
 腹立ち紛れに手にした四つ葉を投げつけると、サスケは不本意そうな顔をする。
「からかってなんかねえよ、ウスラトンカチ」
「だって嘘ついたじゃん!」
「嘘じゃねえ。最初に噂って言っただろうが。本当かどうかなんて、オレが知るか」
 何だかすごく詭弁のような気がする。
 気がするが、言葉だけみればサスケの言うとおりなので、ナルトはうーっと唸って黙り込んだ。
(連れてきてくれたのはサスケなのに、何でそんなヤなこと言うってば!)
 好きな相手が他人のために何かしてやるのが面白くないという狭量な男心なんか、もちろん思いも及ばないし、ここまで嫌がらせされると意地になってしまうのがナルトの性格だ。
 思いっきりサスケにあっかんべーをすると、しゃがみ込んで白詰草を漁り始めた。
「……結局、摘むのか」
「あったり前だってば。サスケのゆーことなんか信じねーもんねー」
「嘘なんかついてねえって言ってるだろ。ここらには四つ葉が異様に多いのは事実だ」
「でも、そんな危ない所だったら、公園になんかするわけないってば。もしかして本当でも、あげるの1本か2本だけだし。それっぽっち、サクラちゃんもカカシ先生もすっげ強いからだいじょーぶ!」
 ポジティブシンキング全開の言葉にサスケも返す言葉がなかったらしい。
 それきり何も言わなかったが、それは既に幸運のお守りとは呼べないんじゃないかと彼が考えていたのは、ナルトの知るところではなかった。
 複雑な心境のサスケを差し置いて、ナルトはひたすら四つ葉の選別に励んだ。
 何しろこれだけあると、こっちの方が大きいとか形が綺麗とか、色々と選択の余地があり過ぎて中々に難しいのだ。
 散々迷ってそれでも決めきれず、ナルトは一休みすることにした。
 立ち上がってうーんと伸びをしながら、辺りを見渡す。
 空はどこまでも青く、ほんの少しひんやりとした風は心地よい涼しさで、そして足元には一面の白詰草。
「まっしろでキレイだってばよ」
 さっきのちょっとした諍いも忘れて、ナルトは気分よく目を細めた。
 が、せっかくの気分に水を差すように。
「そうか? 結構枯れかけで茶色くなってるぜ?」
 身も蓋もない言葉に、ナルトはがっくりと肩を落とした。
「……なんでサスケってば、いっつもいっつもそうヤなことばっか言うってばよ……」
「何がヤなことだ。本当のことしか言ってねえだろ」
 確かに、そろそろ昼の日差しがきつくなり始めたこの時期、もう最盛期は過ぎてしまったらしく、転々と散らばる白詰草の花の色は、どちらかといえば真っ白なものより茶色っぽく変色してしまったものの方が多いのだけれど。
 ナルトとて、それくらいは最初から気付いていたのだけれど。
 そういう問題じゃないと、ナルトは思う。
「よく見たらそうかもしれねーけど! でもさ、言い方ってあるじゃんよ」
 絵に描いたような春の風景と言うに差し支えないほどは綺麗なのだから、そこまで揚げ足取るようなことを言わなくてもいいじゃないか。
 本当に、どうしてサスケという奴は、綺麗な顔して言うこともやることも即物的で情緒のカケラもないのだろう。
 今回は嫌がらせで言ってるわけじゃなさそうだから、たちが悪い。
「なんてーかこう、フゼイってゆーの? 雰囲気も何もかんもだいなしだってば」
「……何だ、そういうことか」
 ぶちぶちごねるナルトに、不意にサスケが呟いた。
 その得心したような響きに、訝しく思ったナルトが改めてサスケを見返すと、妙に晴れ晴れとした黒い瞳と視線が合った。
「雰囲気が欲しかったんなら、早く言え」
「……はあっ?!」
 何だか恐ろしくわけの分からないことを言われた気がして、問い返そうとすら思いつけず固まっているうちに。
「ちょっ、サスケ……!」
 気が付けば、サスケの腕の中。
 ぎゅうぎゅうに抱き込まれてようやく思考が戻ってくるが、それも後の祭り。
 力では負けていないつもりだが、どう考えても不利な体勢な上、体術に長けたサスケは押さえ込む技術に関してもナルトの及ぶところではない。
 往生際悪くじたばたしながら、ナルトは焦って考えた。
 一体どうして、何がどうなってこうなるのか。
 雰囲気つったって、こーゆー雰囲気のこと言ったんじゃない。
 仮に百歩……いや、一万歩譲ってそうだったとしても、こんな時間にこんな場所でいきなりぎゅう、なんて、それ絶対、雰囲気あるなんて言わないような気がするってば!
 なんて、ナルトにしては短時間に色々と考えたのだけれども。
 殆ど力任せに締め付けてくる腕の隙間からサスケの顔を垣間見てしまったら、結局は言葉に出来なくなった。
(幸せそーな顔って、こーゆーのを言うのかなあ)
 ふと思ってしまえば、今更ながらにサスケの体温だとかが意識され、かーっと頬が熱くなった。
 結局は、サスケに触れていることはナルトも嫌いじゃない、というかとても好き、だったりするのだ。
 胸の中がほわほわして、ずっとそうしていたくなるくらいには。
(あーもう、サスケのオタンコナス!)
 半分やけくそのように身体の力を抜いて身を預けてみれば、サスケはますます嬉しそうな顔をして。
 そんな顔を見せられては、本当に何も言えない。
 しょうがないから少しだけ誤魔化されてやってもいいかもしれない、なんてそれこそ奴の思うつぼかもしれないけれど。
(ほんっとーに、ちょびっとだけだかんな!)
 往生際悪く胸の中で呟いて、近付いて来る唇にナルトはぎゅっと目を閉じた。









「……で、二人でこれを取ってきてくれたわけ」
 次の日、四つ葉を渡すと、カカシとサクラはそう言って沈黙した。
 無言のまま、渡されたものをじーっと見つめる二人の目はそれはもう真剣で。
 嬉しくないのかなあ、ひょっとして余計なことしちゃったかな、と、段々心配になってきた頃。
「なんつーか、おまえらから四つ葉のクローバーもらってもなあ」
「ものすごーくご利益があるか、これから先の恋愛運すべて吸い尽くされてしまうか、どっちかのような気がするわ」
 しみじみと言われた台詞は、ナルトには理解不能だったけれど。
「幸せ分けてやってるのに、文句言うな」
 相変わらずこれっぽっちも愛想のない言葉を吐くサスケは、それでもやっぱり昨日と同じ顔をしていたので。
 まあいっか、とナルトは思った。
(だって)
 幸せならば、何でも許せる気分になるものなのだから。





  
 


 


タイトルを見て、さあ行こう、ラ○カ〜ル♪と続けてしまった方、ロックリバーへ遠乗りしましょう(笑)。
随分と、本当に随分と書き物してなくて、リハビリ中。私にしちゃ珍しく一日で書きあげたけど、その分色々ツッコミどころありそうです。
つーか、サスケの性格。原作はもちろんこれまで書いてきた話ともかなり違ってるよーな。馬鹿だ…馬鹿がいるよ…
(05.05.17)




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