* このお話は拙作「いやがらせ」の続きになっています。未読の方は、こちらを先にご覧になってからお進みくださいませ。
姿を見るなり駆け寄って、両手を伸ばしてしがみつく。
満面の笑みを浮かべながら、力一杯ぎゅうぎゅうと。
しがみつかれた方はと言えば、無表情ながらも小さな身体を引き寄せて、お返しとばかりに抱きしめる。
万が一にも逃げられないように、そりゃもうきっちりしっかりと。
それはまったく端から見れば、正にらぶらぶ幸せ一杯どうぞ勝手にやってくれのバカップルにしか見えない光景だ。
・・・あくまでも見えるだけ、であるが。
バージョンアップ
「どうだ参ったか、サスケ!」
「相変わらずワンパターンだな、ウスラトンカチ」
「むー、これならどうだってばよ!」
お互いの身体に腕を回して、これ以上ないってくらい密着した子供達の口から出てくるのは、色気のカケラもない言葉。
見た目とは裏腹に、そこには甘い雰囲気なんて全くない。
(ある意味、バカップルと言えばバカップルなんだけどね)
いい加減見飽きた光景をぼんやり眺めながら、サクラはちらっと時計に目をやった。
時計の針は集合時間から30分程経過した位置にあり、まだ最低2時間はこれに付き合わなきゃいけないのかとげんなりした気分になる。
うちはサスケはスキンシップが大嫌い。
その事に気付いたナルトが、顔を合わせる度にサスケに抱き着くようになってから、数週間が過ぎていた。
「いやがらせだってばよ!」
ナルトは大いばりであるが、サクラに言わせれば、そもそもその前提条件からして大きく間違っている。
すなわち。
サスケはナルト以外とのスキンシップが大嫌い。てゆーか興味ない。
正しくはこれ。
傍から見ればすぐ分かる程度にはあからさまなのだが、如何せん当の本人だけが気付いていない。
というより、サスケが気付かせないようにしているのだけれど。
(しかし不毛だわ)
自称・いやがらせの最中、サスケもナルトも最後の意地のように顔を背け合っている。
だから、その時のお互いの表情を、二人とも知らないのだ。
(見えたら一発なんだけどな)
そう思いつつ、教えてやるつもりはない。
まあ当分このままでもいいんじゃない?と些か意地悪い事を考えていた矢先。
「何か最近、いやがらせの効果あんまりないよーな気がするってばよ」
不意に不満そうな表情で呟いたナルトに、あらとサクラは目を見張る。
サスケの方に視線を移せば、これまたひどく憮然とした表情で。
(余計な知恵つきやがって)
という心の声が聞こえなかったのは、ナルトくらいなものだろう。
「おまえ、くっつくのキライなんて、ほんとーはウソだろ?」
サスケにしがみついたままの体勢で、ナルトが頬を膨らませた。
本人は一応抗議してるつもりなのだろうが、抱き着いたまま上目遣いで睨み付けるなんて、はっきり言って逆効果も甚だしい。
それはともかく、気付くの遅すぎ。
というのが、サクラと、そしておそらくサスケの共通の感想。
抱き着いても逃げ出すどころか反対に相手を拘束にかかるような奴、どの面下げてひっつくのが苦手なんて言えるだろうか。
「誰がんなくだらねー嘘つくか。オレは心底うざい事はだいっきらいだ」
・・・少なくともうちはの末裔は、表情一つ変えずそんな虚言を吐ける程度には面の皮が厚かったらしい。
「んじゃ、何でおまえの方がこんなぎゅうぎゅうしてくるわけ?」
「攻撃されたらやり返すだろう、普通。反撃に手段なんか選んでられるか」
「む、仕返しなんておまえ生意気! そんならこれならどうだっ」
言いながらサスケの首に手を回して、ますます密着度を深めるナルト。
そんなナルトの死角で、してやったりとサスケが笑みを洩らした。
「ったく懲りない奴だな、このドベが」
「何だとー!」
「・・・根本的に、作戦変更した方がいいんじゃない?」
思わず口を挟んだサクラを、サスケがぎっと睨み付ける。
(余計な事言うな!)
内なるサスケバレバレの剣呑な視線を、サクラはあっさり流した。
念のために言うが、サクラはこの二人に関して何も口出しする気はない。
ほんの少し前までサスケに片思いしていた身ではあるけれど、こんな自覚無しのイチャパラをさんざん間近で見せつけられては、諦めるより他にどうしようもなく。
いのと一緒にヤケ食い大泣きふて寝を3日程続けた後、こうなったらとことんあの二人の行く末を見極めてやる、と無理矢理気持ちを切り替える事にして。
最初は多分に強がリだったそれも、ここ最近はすっかり自然なライフスタイルの一部と化しつつある。
(失恋は女を成長させるってホントなのねえ)
自分で実践したくはなかったけれど。
そういうわけで、「いやがらせ」と称する単なるじゃれ合いについて傍観者の位置を動くつもりはこれっぽっちもないのだが。
(あんまりサスケ君の思惑通りになるのもつまらないってゆーか、不公平だし?)
ただでさえ、頭脳戦(と呼ぶにもちゃんちゃらおかしい)においてはナルトが圧倒的に不利なのだから、せめてハンデくらいあげてもいいと思う。
「効果のない作戦にはいつまでもこだわらないのも、忍びの心得よ」
「そっかあ。さすがサクラちゃん!」
パッと顔を輝かせるナルトと裏腹に、サスケは苦虫を噛み潰したような顔をする。
勿論ナルトがそんな事に気付く筈もなく、おもむろにサスケから身体を離すとふんぞり返ってびしっと指を突き付けた。
「サスケ! おまえの一番苦手な事って何だってばよ!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
開いた口が塞がらないとはこの事だ。
一体何処の世界に、ここまで真正面から弱点を聞かれて正直に答えるバカがいる。
(ああ、この子ならやりかねないかも)
思わず指でこめかみを押さえつつも、サクラが口を開こうとした時。
「小うるせーガキに四六時中周りをうろちょろされるなんざ、まったくゾッとしねえな」
余裕たっぷりなサスケの台詞に、再びサクラを目眩が襲った。
・・・そこまで直球でどうする。
が、世の中は彼女の予測より遥かに単純にできているらしい。
「小うるせーガキって誰だってば!」
「思い当たる事でもあんのか、ドベ」
「またドベって言う! ちっくしょー、今に見てろよ。後でゴメンナサイつっても遅いんだからなっっ」
「そりゃ楽しみだな」
そう言って口角を吊り上げるサスケは、確かに言葉通り楽しそう、と言っていいのかどうか。
(あー、企んでる企んでる)
「そんな事言ってられるのも今のうちだけだってばよ!」
「それはこっちの台詞だ」
何も考えずに喚き立てるナルトと含む所ありまくりのサスケの会話に、サクラはとりあえず耳を塞ぐ事にした。
(い、いくら何でも、そこまで簡単に事が運ぶわけないわよね・・・)
我ながらまったく確信の持てない言い訳をしながら。
「あ、サクラちゃーん!」
その日の夜、近所に買い物に出たサクラは、道向こうから歩いて来るよく見知った子供に気が付いた瞬間、思わず目を逸らした。
見なかった事にしようかと真剣に考えるが、いかにも嬉しそうに名前まで呼ばれて駆け寄って来られては今更踵を返すわけにもいかない。
「・・・ナルト。どうしたの、その荷物は」
子犬のように駆け寄ってきたナルトは、背中に大きなリュックを背負っていて、おまけに両手にはひとつずつ植物の鉢なんか持っている。
まるでどこぞに夜逃げするようなこの風体の理由、実のところ聞かなくても分かっている。
しかし疑問として口に出してみたのは、あまり信じたくなかったからだ。
サクラの葛藤など欠片も知らぬ風に、ナルトは待ってましたとばかりに、にぱっと笑った。
「サスケんちにハイパーいやがらせしに行くんだってばよ! 頭下げて謝って来るまで居座ってやるってば。サスケの奴、首を洗って待ってろよ!」
いや、手ぐすね引いて待ってると思います。
テーブルセッティングも完璧に、あとは御馳走が皿の上に飛び込んでくればOKという状態で。
(昨日の今日つーかさっきの今で、何て短絡思考なのよっ、こいつは!)
あんな罠とも言えないような誘導にあっさり引っかかるようでは、忍びとしての将来はどうだろう。
うっかり遙か未来に思いを馳せてしまうサクラであったが、とりあえず目先の問題としては。
まんまと虎口に向かおうとしているナルトを、このまま見送るべきか否か。
できれば何も知らないフリをしたいと思ったが、さすがにそれは人としてヤバイだろうと考え直す。
「ナルト、いーい? よーく聞くのよ」
「う、うん?」
突然がしっと肩を掴まれて、ナルトは目をぱちくりさせた。
驚きながらも、サクラの真剣な面持ちにこくこくと何度か頷く。
「嫌がらせってのはね、自分の被害はできるだけ少なく、かつ相手には最大限にダメージを与えるってのが目的なの。分かるわね」
「だから、サスケのだいっきらいな事してダメージ与えるってばよ?」
「だーかーらー、それは逆効果・・・」
「サクラちゃん?」
はた、と言葉を詰まらせたサクラに、ナルトは心配そうに顔をのぞき込んできた。
あまりにも無邪気なその様子に、サクラはますます次の言葉に迷ってしまう。
仮にも年頃のオトメとして口にしたくない種類の事柄だし、下手に言ったところで意味なんか理解してくれない気もする。
が、最低限の忠告は果たしておかなければ、と無理矢理自分を奮い立たせて。
「・・・今、あんたがものすごーくお腹が空いてるとして、目の前にラーメンが歩いてきて、さあ食べてくださいとばかりに座り込んじゃったらどうする?」
「それ、何の関係があるってば? てゆーかラーメンって歩かないと思う」
「いいから、答えなさい!」
「え、えと、そりゃ食べちゃうってばよ。当然」
「・・・そう、分かってるのね。それでもあんた、サスケ君の所に行くのね・・・」
「サ、サクラちゃん、どうしたってば? さっきから変な事ばっかり言って」
遠い目をするサクラに、話がどう繋がっているのかさっぱり分からないナルトが首を傾げる。
「言っとくけど、一度サスケ君のトコ行ったら、当分帰れないと思うわよ」
てゆーか一生離してもらえないだろう。
そんな心の声は、当然ながらナルトに届くわけもなく。
「あ、それなら大丈夫だってば。オレってばどうせ一人暮らしだし、しばらく帰らなくてもぜーんぜん平気だもん。むしろ楽しいってばよ」
サスケ一緒だし。
微かに頬を染めつつ言い切ったナルトの顔といったら。
嬉しそうというか、幸せそうというか、とにかく目映いくらいの満面の笑顔ってヤツで。
サクラはふっとむなしさに襲われる。
「・・・じゃあ頑張ってね」
「うん、頑張るってばよ! じゃあね、サクラちゃん」
ぶんぶんと手を振りつつ駆けていく、でっかいリュックの後ろ姿が。
(ネギ背負った鴨に見えるわ)
あるいは。
飛んで火に入る夏の虫、とも言う。
いずれこうなるだろうとは予測していたし、その時期が早まっただけのこと。
そう思いつつも、妙な脱力感に襲われるのは否めないが。
サクラはひとつため息を吐くと、はしゃいだ足取りの子供にくるりと背を向けた。
「とりあえず、明日はナルト休みよね。その分サスケ君にしっかり働いてもらわなくちゃ」
実際、ナルトが任務に復帰してきたのは数日後の事だった。
とは言っても、何をするにも非常に動作が緩慢で、ともすれば疲れたように座り込むという状態だったため、休み中と同じくサスケが二人分の仕事を引き受ける羽目になったけれど。
が、それに何の不満も洩らさないどころか、いっそ無気味な程上機嫌にさくさくと任務をこなすサスケに、もはやツッコミを入れる者はいない。
「サスケの奴、大うそつきだってばよ・・・」
対照的にどよーんとした雰囲気を漂わせたナルトの恨み言は、全員にあっさり無視された。
「だって、ホントに嫌なら逃げるくらいするわよね」
任務が終わるやいなや連れ立って帰路に付く子供達の後ろ姿を見送りながら、ご馳走様、とサクラは呟いた。
19000キリを踏まれたポピー様からのリクエスト「ひっつき虫の話。カップルでもカップルじゃなくても可」でした。一応これはカップルになるまでの話・・・とゆー事になるのでしょうか。
ひっつき虫シリーズ(って言えるのかどうか)は、ナルトの馬鹿っぷりとサスケの腹黒っぷりが書いててとっても楽しいですv
しかし今回の主役、きっぱりはっきりサクラちゃんでしたね(爆)。
しかもナルト、見事にサスケに食われてしまったし。一体うちは家で何があったのでしょーか(笑)。
ポピー様、大変遅くなってすみませんでした〜。
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