ひとつの出会いは人生を変える
うちはサスケには、嫌いなものがたくさんある。
中でも嫌いなものが二つ。
「忍者」と「煩いガキ」。
郵便受けには見慣れた封書が一通。
差出人を確認すると、渋面をつくって、二つに裂いた。
「忍者アカデミー理事会」からの編入学推薦通知。
うちはサスケは、代々優秀な忍者を輩出してきた名門うちはの只1人の生き残りである。
数年前実兄によって一族はことごとく惨殺され、この家は血の海と化した。
ただひとり、彼が助かったのは「忍者」ではなかったから。
誇りにしていた父母も祖父も
優しかった叔父や叔母やいとこや
理想にしていた兄も。
自分の、忍者になるのだという夢も。
全て失った。
皆、忍者だった。
忍者でなかったなら。
未だ癒えない傷を抱えている自分にとって、その書面はあまりにも無神経で。
「貴殿 うちはサスケ
優秀な血継限界の血を宿すものとして、忍者アカデミーへの編入学をされたし。」
(・・・・くそっくらえだ。)
自分は忍者にはならない。
そう心に誓った。
忍者なんて所詮使い捨ての裏稼業。
特殊な能力を持つ一族として、遺体は全て回収され、葬式には空っぽの棺だけが並んだ。
泣くことも出来ず、ただ呆然とした、あの日。
何もかもを失っていく、あんな思いはもうしたくない。
君だけでも生き残ってよかった、慰めの言葉さえ、ただこの血を欲するかのようで。
逃げるように選んだのはなんの変哲もない普通の学校。
だけど、そこでさえ、かけられる五月蠅い声。
「名門なんだってね。」
「うちはの家なんですって。」
「ひとりぼっちなんてカワイソウ」
「お父さんはいないの?」
「お母さんはどんな人だったの?」
「おまえの兄ちゃん、サツジンキなんだってな。」
いちいち、うぜえよ。
ガキは嫌いだ。どいつもこいつも悪びれもせず土足で人の心を踏んでいく。
だから、誰とも口をきかない。
授業は先生に文句を言われない程度にまじめにやって。
みんなともその場だけをうまくやり過ごして。
感情なんて要らない。
日々だけが無為に過ぎる。
「欠席も遅刻もなくて勉強も運動も出来てとってもいい子です、三学期はもっとみんなに溶け込もう。」
なんて、通信簿に書かれちまう。
「必要ねえよ。」
明日からは冬休みで、誰とも会わずにゆっくり過ごせるな。そう思いながら1人で下校中。
黄色い頭の、アイツに会った。
************
ずざざざ!!とすごい音を立てて目の前に何かが落ちてきた。
「いってー・・・・」
通りに枝を伸ばす木から落ちてきたそれはうつぶせに突っ伏して。
まっきっきーのあたまの、だいだいの服の、見るからにうるさそうな奴。
いつもなら我関せずと、無視して避けて通るところだが、
なぜだか、虫の居所がわるかったのだ。
ぎゅう。
「ぐえ!!!」
背中を軽く踏みつけて、そのまま通り過ぎる。
「っちょっと、待てってばよ!てめ!」
踏みつけた小さい黄色いのは勢いよく起き上がると、真っ赤になって怒り出した。
「何か用か?」
「なにって!てめ!人踏んで、信じられねー!」
「・・・踏んだのか?」
「たった今!踏んだってばよ!」
「そりゃ、気付かなかった。」
「うそつけー!!」
「一つ聞くが。ここは、道路だよな。」
「だってばよ。」
「道路、ってのは歩くためのもんだろう。俺は、まっすぐ歩いてきただけだ。」
「・・・そ、そりゃ、・・・。」
そうだけど、とごもごもと口ごもるところに、
「お前が、悪い。」
きっぱりというと、目を大きく見開いて。
「むっきー!お前、やなやツー!てっぺんあたまきたー!!!」
「頭に来たら、どうすんだよ。」
「こうしてやるー!!」
全身で飛びかかってくるのを身を引いてきれいにかわし。
余計ムキになって突っかかってくるのをひょいひょいとよけ。
「もう終いかよ。息上がってるぜ?」
「・・っだまだあ!」
キッと睨みつけるとなおも食い下がってくる。
綺麗に避けたはずの拳がチッと頬をかすめる。
(!)
「こらー!性懲りもなくまた来おって!何を騒いどるんじゃ!ロクデナシのクソガキがー!!」
怒り心頭といった感じでその家の住人らしき男が棒を持って出てきた。
「げ、やべ」
「ち・・逃げるぞ!」
「え、でも・・」
「なにやってる!」
面倒はごめんだ。何故だか逃げようとしない少年の手をつかむと、走ってその場から逃げ出した。
しばらく走って、追ってこないのを確認すると、息をついた。
「離せよ!馬鹿力!」
そういって、腕を振り払うと、もと来た方向に戻ろうとする。
「おい。どこ行くんだ。」
「俺、戻るから」
「戻るってあそこにか?なんかおやじ怒ってたぜ?」
「ん・・」
「だいたいお前あそこで何やってたんだ?」
「あそこの木の上に登れるようになったら、先生ちゃんと基本教えてくれるって言うからさ。」
「・・・せんせい?」
往来の他人様の家の木なんて、どう考えても嫌がらせかいじめだろう。一体何考えてやがる。
それで性懲りもなく言うことをきこうなんて馬鹿言うのも腹が立った。
「おい」
「え」
「あれと似たような木でいいなら、俺の家の庭にある。・・・とりあえずはそれで練習しろ。」
「え?」
「じゃねえと、また踏んじまうだろ!」
「・・・お前ん家、行ってもいいの?」
「好きにしろ」
俺は一体何をやってるんだろう。
初対面の奴相手に自分でもよく分からない。
うるさいし、見てるといらいらするし、世話が焼けるし。・・・ってなんで世話やいてんだ、俺は。
くしゃくしゃと前髪をいじっていると、じいっと見て、すごく嬉しそうに笑いかけてきた。
「あんがと。」
こんな風に笑うんだ。一瞬引き込まれる。
「おれさ、おれ。うずまきナルト。」
「うちはサスケだ・・。」
「忍者アカデミー生だってばよ!」
忍者?
「・・・サスケ?」
「・・くんな。」
「え?」
「やっぱりもう、来るな。」
「なんで・・・?」
「俺は、忍者が大っ嫌いなんだよ。」
木に登る、なんてそんなことをやってた。
おおっぴらに忍者養成所があるような里で、最初から気付いてもよかったのに。
「言われなくたって、帰るってば!お前って、すっげー勝手!」
ばたばたと去っていく足音。
(忍者はそんな歩き方しねえだろ。)
そうだ。あんなに黄色い頭で、橙と青の服で、どたばたして、すぐ怒って、笑って。
だから、気付かなかった。
あれは「一番嫌いなもの」。
********
家に帰ると、やっぱり気になった。
自分から来るなと言ったくせに、心配になって、もう一度、さっきの場所まで走って引き返した。
もう、夕暮れだった。
黄色いのがひょこひょこと木に登っていて、夕方の青の残る金色の空に、妙にその色は溶け込んでいた。
俺を見つけると枝にしがみついたまま「どーよ!」っていう感じで笑って見せた。
見惚れた、といってもいいのだろうか。不思議なくらいその光景は印象的で、なぜだか、ひどく切なくなった。
木に登り,ナルトのいる枝まで辿り着くと、子供二人の体重で枝はすこし軋んだ。
「おまえ、見つかったら怒られるってばよ」
「そんときゃ、上手く逃げる。」
「へっへー。」
また、屈託なく笑いかける。その笑顔につられて自分の表情もかすかにゆるむのを自覚した。
「もう、登れるようになったのか?」
「もうちょっとー。」
「さっきは悪かった。」
「あ?」
「嫌いといった。・・・けど、そんなに嫌いじゃ、ねえ。」
「ああ。そういうの慣れてるからいいってばよ。」
「うちにも、来てもいい。」
「・・・お前ってば、変な奴ー!」
自分でもどうかしてると思う。
俺は忍者は嫌い。煩い子供も嫌い。
だから、こいつは俺の一番嫌いな奴なのに。
やがて、空の色は光を無くし始めていた。
「降りようぜ。」
「先、降りろよ。おれ、もうちょっといるから」
「・・・お前、まさか、降りられねえ、って訳じゃねえんだろうな。」
「うー・・・」
図星のようだ。ひょっとして、昼間落ちてきたのもそれでか、と合点がいった。
世話の焼ける奴だ。いや、世話を焼きたいのは自分で、しかもそんなこと、他の奴になんか思ったことなかった。
「つかまれよ。トロくせー事やってるとまた、怒鳴られるかも知れねえからな。」
抱きつかれると、そのまま抱えて、地面まで音もなく飛び降りる。
「すげー!お前ってば忍者?」
「忍者はお前だろ。」
苦笑すると、今度はナルトがびっくりした顔をした。
「おまえって、踏んだりつっかかったり、すっげヤナ奴かと思ったのに。
ちゃんと笑えるんじゃん。そっちのが、いいってばよ。」
普段なら、そういうことをいわれるのはとても嫌なのに、ちょっと照れくさくなったのはなぜだろう。
お前みたいには笑えない、けど。
「サスケって夜の色してんのなー。やっぱ忍者みたい。いいなー。おれも髪とか黒けりゃよかったのにさー。」
「おまえは、そのままでいい。」
「・・・え・・」
「・・・どうせ、ドベなんだから一緒だろ。」
憎まれ口をきくと、むう、とした。どうしても気恥ずかしくて本当のことなんて言えない。
金色のふわふわする髪と青い目はあの笑顔にとても似合っていて、黒くなんかしてほしくないのだ。
「なあなあ、さっきいってたの、毎日きてもいいの?」
「ああ、どうせ休みだからな。」
「じゃあ、休みの間毎日行くってばよ。新学期になったらせんせ、びっくりするってば。」
「そうだな。それと言っとくけど、うちは忍者屋敷だから。」
「?」
「まあ、まずは玄関まで辿り着いてみろ。いい訓練になる。」
「なんだってばよそれ!」
ぶうとふくれるのを見て、おれは、また、笑った。
こんな風に笑うのは、本当に久しぶりだった。
6000hitで申告いただいた、案様からのリクエストです。リク内容は後編で。