人生一寸先は闇。
うちはの少年は、しみじみその言葉を噛み締める。
順調に復讐人生を歩んできたというのに、うっかり嵌ってしまった落とし穴。
それはまったく突然で、避ける暇もなくて。
何よりどうしようもないのは、這い上がる気がさらさらないこと。
まったく厄介です。
お医者様でも治せない病ってのは。
それでもやっぱりちょっとばかり罪悪感というのはあるもので。
心の中で手を合わせてみたりする。
父さん、母さん、ゴメンナサイ。
オレは一族復興できそうにありません。
こういう、中途半端な待遇ってのが一番困る。
サスケは仏頂面で考える。
泊まりがけの任務はそう珍しいことではなく、移動中でもない限り、大抵の場合は依頼人が部屋を準備してくれるのだが。
個室なんて贅沢言う気はないけれど、それならいっそ、皆で一つの部屋に押し込んでくれればいいものを、妙に気を使って半端な部屋数をあてがってくれるものだから。
その度にサスケの忍耐は切れそうになる。
なぜならば。
「年頃の男の子と女の子を一緒の部屋にするわけにはいかないでショ」
「えー、オレたまにはサクラちゃんとおんなじがいいってばよー」
「何言ってんの、このバカ!」
「・・・・」
今回もまたサスケと同室になったのは、うずまきナルト。
チビでドベでウスラトンカチのチームメイト。
加えて、うちはサスケの片思いの相手。
好きな子と一晩中一緒なんて、はっきり言って拷問以外の何物でもない。
「わー、結構広い部屋だってば」
部屋に入った途端、ナルトは嬉しそうに上着を脱ぎ捨てて、畳にゴロン。
転がった拍子にめくれたシャツからちらりと見える白い肌に、サスケは慌てて顔を背ける。
意識なんてされてないのは分かっているけれど、ここまで無防備だと腹が立つ。
勢い、嬉しげに畳の上で転がるナルトに投げる言葉もつっけんどんになった。
「明日も早いんだ。ごろごろしてないで、とっとと風呂入って寝ろ」
「ちぇっ、相変わらずうるせーんだから」
ぶつぶつ言いながらも、ナルトは素直に起き上がる。
それを確認したサスケが荷物の整理を始めると、とことことナルトが寄って来て、背中合わせに座り込んだ。
それも、触れるか触れないかの微妙な距離で。
その位置でごそごそと風呂の準備を始める気配に、サスケは頭を抱えたくなった。
思えば、スリーマンセルを組んだ当初は、顔を合わせればいがみ合いばかりだった。
大方においてそれは、好きな子に素直になれなくて、それでも何とか気を引きたいサスケの憎まれ口が原因だったけれど。
しかし、うちはのサスケ、ヒネてはいるがバカじゃない。
このままではこじれるばかりと、かーなーり努力して、つい出そうになる悪態を2回に1回は我慢するようにした。
無愛想で、言いたいことの半分も口に出せないというのは、もうしょうがないとして。
そうやって口を慎むようにすれば、元々サスケの日常といえば、
うっかり任務でドジを踏んだナルトをフォローしたり。
うっかり木から落ちそうになったナルトを助けたり。
うっかり道で転びそうになったナルトを支えたり。
うっかりお弁当を(ついでに財布も)忘れたナルトにお握りをわけてやったり。
その度に、ドベとかウスラトンカチとか言いたくなるのをぐっとこらえて、黙って手を貸してあげるという行為は、かなりポイントが高いようで。
「おまえ、最近ちょっといいヤツ」
ちょっと照れたようにあの子が笑ってくれる程度には、効果てきめんだった。
簡単すぎとサスケは思ったが、以前はそこまで口が悪かったんだろうか、と反省もしてみたりする。
ケンカもたまには悪くないけど、やっぱり笑ってくれた方が嬉しいから。
そういうわけで、最近のサスケとナルトは、当初に比べるとかなり友好度アップではあったのだけれど。
こんな状況ではそれがアダ。
どうやらナルトはかなりのくっつきたがりで、一旦懐くと歯止めが効かないよう。
たとえばこんな風に、特に理由もないのにやたらとまとわりついてきて。
これが意識してのことなら大いに歓迎すべきことなのだが、あいにく、イルカとかカカシとかサクラとか好意を持ってる人間に対しては、みんな同じように懐き倒すのだから、かなり複雑な気分にならざるを得ない。
背後ではナルトがもそもそと荷物を引っ張り出していて。
僅かに触れる背中とか、ちょっとした拍子に当たったりする肘とか。
二人きりの部屋でこんなにくっつかれるなんて、これはもう限界への挑戦といおうか、曲がりなりにも健康な青少年であるサスケには、かなりの試練。
おまけに。
「サスケ、一緒に入る?」
なんて言われた日には、一体どうすればいいのだろう。
ナルトが何の気なしに言ってるのは分かってる。
男同士なら、気にする方がおかしいわけで。
とは言うものの、サスケとしては、自分がナルトに抱いている感情が普通じゃないことは、嫌って程自覚済。
この状況で一緒に風呂なんて入ってしまったら、手を出さない自信なんてあるか、オレ?!
いや、ない。
「・・・いいから、先に入って来い」
ようやく声を絞り出すと、ちぇっと残念そうな声がして、ナルトが立ち上がる。
「じゃ、お先ー」
ぱたんと襖が閉まって、足音が遠くなるのを確認して、サスケはどっと息を吐いた。
部屋、代わってほしいかも。
任務の疲労も重なって、ぐったりしてしまったサスケは、一瞬そんなことも考えたが、慌てて打ち消した。
カカシとサクラ。
サスケ自身はどっちと一緒でも一向に構うところではないのだが、ナルトとあいつらを一緒にするわけにはいかない。
やたらナルトを構い倒すセクハラ上忍に、大好きとナルトが公言して憚らない少女。
どちらにしても、サスケの心労は減る筈もなく。
それなら、今の状態で耐える方がずっとマシな筈。・・・多分。
「・・・バスタオル?」
気を取り直して、蒲団を敷くためにその辺を片付けていると、荷物の陰に放り出されたものに気が付いた。
「忘れていきやがったな、あのウスラトンカチ」
しょうがないから届けるかとそれを手に取って、サスケは部屋を出る。
長い廊下を抜けて、風呂場の前までやって来て、扉に手をかけた時、はたとサスケの動きが止まった。
風呂といえば服を脱ぐというわけで、そうすると当然この扉の向こうには裸のナルトがいるということで。
思わず耳をそばだてると、扉の向こうではごそごそと衣擦れの音がする。
さっきちらっと見えた白い肌が脳裏を掠めて、サスケはぶんぶんと頭を振った。
忘れ物を届けに来ただけだし。
男同士なんだから何気に渡せばいいし。
役得なんてそんなこと、・・・ちょっとは考えてたりするけれど。
どっちにしろ、ただバスタオルを渡すだけだから。
よし。
と覚悟を決めて、サスケは扉を開けた。
→2
ナルコやないやん。(←さよのツッコミ)
すみません。その通りです。
男装ナルコだから、発覚してなきゃ男の子ver.と変わりないです。しかもサスケ視点だし。
後編では無事(?)発覚して、サスケともちょっと進展があるはず。おそらく。
今回気付いた事。青少年なサスケは書いてて楽しい。
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