別にやましいことなんかない。
 木製の扉の前で、サスケは自分に言い聞かせる。
 ・・・そりゃ、まったく期待してないなんて口が裂けても言えないけど。
 いつもやたら厚着しているあの子のアラレもない姿、想像せずにはいられない。
 (だから、忘れ物を持ってきただけだろうが!)
 ぱんと頬を叩いて深呼吸。
 頭の中でお経を唱えて精神統一までしてみたり。
 (・・・よし!)
 「おい、ナ・・・」
 「サスケ? いきなりどうしたんだってばよ」
 勢い余ってノックもせずに扉を開けると、ナルトがびっくりしたように振り返る。
 本当に驚いたらしくまん丸に目を見開いた様は実に愛らしくて、いつもだったら『気配くらい読め。ウスラトンカチ』なんて(一方的に)楽しいコミュニケーションを始めるところだが。
 (・・・何だこれは)
 目の前の信じ難い光景に、サスケ一瞬にして石化。
 手にしたタオルがぱさりと落ちたことにも、まったく気付かなかった。




 「何ぼーっとしてるんだってば」
 突っ立ったままのサスケに、ナルトが訝しそうに声をかける。
 返事がないのに焦れたのか、むっとしたように近付いてくるナルトに、我に返ったサスケは飛び跳ねるように後ずさった。
 「んな格好で近付くんじゃねえ!」
 まさに風呂に入る直前だったらしいナルトは、文字通り一糸纏わぬ姿で。
 そこまではある程度予想通り・・・というか期待通りではあった。
 素肌をまったく隠そうともせずに、きょとんと見上げてくる幼い顔はいつもの見慣れたドベのもの。
 しかし、その首から下は。
 普段ぶかぶかのジャケットに覆われている身体はこれまた予想通りひどく細っこく、栄養のある食事をさせなければ!と思わず使命感に燃えてしまいそうな程だったが、当面の問題は別にある。
 何度見ても、ない。
 あるべき所にあるべきものが。
 その意味を把握した瞬間、サスケは光の速さで目の前の身体から目を逸らした。 
 いくら何でもこれは刺激が強すぎる。
 (何でお色気の術なんか使ってやがるんだっっ)
 女の子の姿のナルトなんて。




 以前、ナルトのお色気の術を見たことがある。というか仕掛けられたことがある。
 流れる金色の髪。豊満な胸と腰。すんなりした手足。きゅっとくびれたウエスト。
 これ程肉感的な肢体を持つ美女に悩まし気な目付きでしなだれかかってこられたら、大抵の男ならあっという間に骨抜きにされてしまっただろうが。
 当然と言えば当然ながら、サスケにはまったく効力がなかった。
 『どーしておまえ引っかからないんだってばよ!』
 当人はこの術にかなりの自信を持っていたようで、悔しがってその後も様々なバージョンで挑戦してきたけれど。
 サスケにしてみれば、顔立ちに面影があるとはいっても明らかにナルトとは違う姿になんて、惑わされるわけがない。
 よく言えば一途、悪く言えば粘着質で心が狭いうちはのサスケ、どうしようもない程惚れた相手以外に傾くような安い心は持ってない。
 とは言うものの。
 「サスケ、具合でも悪いのか?」
 硬直したままのサスケを心配そうに覗き込んでくるナルトから意識を逸らすには、かつてない程の精神力、というか忍耐力を必要とした。
 いくらこれは本物じゃないんだと言い聞かせつつも、今現在目の前にいるナルトは。
 がりがりのくせに、ほんのり丸い肩。
 浮き出た鎖骨の下のあるか無きかの微かなふくらみ。
 肉付きは薄いものの、腹から腰にかけてのまろやかなライン。
 お色気の術の成熟した女とは程遠い、年相応というにも未発達な華奢な身体。
 もしもナルトが女の子だったらと、想像したことがなくもない姿そのままで。
 (畜生! 心臓に悪すぎるっ)
 「いいからとっととその術解けよ。んな所で無駄なチャクラ使ってんじゃねえ」
 ついつい吸い寄せられてしまう視線を必死にはがして、裏返りそうになる声をどうにか押さえ込んだ。
 これ以上ないくらい鼓動が速くなり、頭もクラクラする。
 やたら熱を感じる頬や耳がどうなってるかなんて考えたくもない。
 「は? 術なんて使ってないってばよ?」
 しかし、サスケの努力を嘲笑うかのように、ナルトは無邪気な顔で爆弾を投下したのだった。

 


 


 どたどたどたどた。
 けたたましく響く足音に、まだ今日の厄介事は終わってなさそうだとカカシはため息を吐いた。
 手のかかる子供達のお守をしながらどうにか仕事を終わらせて、一息ついてビール片手に読書。
 そんな大人の楽しみを堪能するのは、ちょっぴり先になりそう。
 ああ、先生って面倒な職業。
 ダン!と壊れそうな程音を立てて襖が開くと、転がり込んで来たのは二人の子供。
 というより、ナルトがサスケに引き摺られていると言った方が状況的には正しい。
 おまけにナルトの服装はやけに乱れている。
 いつものジャケットはどこにやったのか、黒いTシャツ姿の上に何故かバスタオルを羽織っていて、ズボンのベルトは外れたままで、ずり落ちそうになるのを片手で押さえていて。
 おやおやとカカシは眉を上げる。
 「せんせー、お風呂入ろうとしたらサスケが邪魔するってば。おまけに変なこと言うんだってばよー」
 「サスケったら、とうとう襲っちゃったのー?」
 いっけないんだーとわざとらしく口元に手をあててるカカシを、サスケは苛立たし気に睨み付けた。
 「だったらてめえの所になんか来るか! んなことより説明してもらうぜ」
 ぐいっとナルトの腕を引っ張って、低い声で唸る。
 「こいつ、女じゃねえか!」




 一同、沈黙。
 据わった目でカカシを睨み付けるサスケ。
 落ち着かない様子でカカシとサスケを見比べるナルト。
 そして、相変わらず底の窺えない表情で顎に手を当てているカカシ。
 無言のまま何やら考えているようないないような態度に、業を煮やしたサスケが口を開こうとした時。
 「何だ、ばれちゃったの」
 「え〜〜〜っっっっっ!!」
 世間話の続きのようにごくあっさりと告げられた言葉に、驚愕の叫びを上げたのはサスケではなく。
 「そんなの聞いてないってば〜〜〜!!!!」
 信じられないとばかりに、ナルトが絶叫する。
 愕然とした表情を見れば、当人にも寝耳に水な出来事だということは一目瞭然。
 (くそ、やっぱりこいつ天然か!)
 ある程度予想はついてたものの、サスケは思わずこめかみを指で押さえた。


 

 「だって教えてなかったしぃー」
 「そーゆー問題か!」
 へらへらと笑う上司にすかさずツッコミを入れつつも。
 「うそだってばよ・・・」
 「何考えてんだ・・・」
 気が抜けたように呆然とする二人の子供。
 目が合って、お互いちょっぴり赤くなったのは御愛嬌。
 そんな彼らを眺めながら、どうやら今夜は大人の楽しみは諦めることになりそうだと、のほほん面した上司が思ったかどうかは定かではない。




 

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 すみません。終わりませんでした。
 全部書いてからアップしようと思ってたらなかなか書きあがらなくて(泣)。でもいい加減1から間が空き過ぎてるし、とりあえず書けたとこまでってことでお許しを。
 続きまた時間かかるかもですが、よろしければお待ちください・・・。




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