恋は障害がある程燃え上がるなんて言うけれど、オレの人生、既に十分過ぎる程山あり谷ありなんだから、そんな事まで波乱万丈じゃなくていい。てかやめてくれ。
そんなささやかな願いを許してくれる程、世間は甘いもんじゃなく。
ドベでガキで激ニブでおまけに男なんて不利な条件ばかりのレンアイ事情、とりあえず最後の項目が削除されたあたり、状況は多少なりとも改善されたのかもしれないが。
この先、明るい見通しが立つような気は全然しない。
それは何故かと問われれば。
「オレが女なんて、何バカな事言ってんだってばよ!」
ひとえに、この留まる所を知らないウスラトンカチのせいだ。
「もー、カカシ先生もサスケも冗談きついってばよー。オレ、一瞬信じそうになっちゃったってば」
呆然としたのも束の間、にへらと笑ってナルトはそんな台詞を吐いた。
何しろ12年間培って来たアイデンティティを丸ごとひっくり返されたのだから、無理からぬ反応ではある。
あるのだが、それをさらりと流せる程サスケも冷静ではない。
ずっと男と信じ込んで来た片思いの相手が、実は女の子でしたなんて衝撃の事実、突然すぎていい加減頭が飽和状態だ。
よく考えればかなり喜ばしい事の筈だが、素直に喜ぶには些か状況が複雑過ぎる。
「おまえ、往生際わりいぞ」
「何だよっ、大体オレのどこが女に見えるんだってば! おまえが変な事言い出すから、先生まで悪ノリするんだってばよ!」
ムキになって言い返すナルトに、サスケの目が段々据わってくる。
(ああ、そうかよ。おまえが女なのもそれを知らなかったのもカカシが悪ノリ馬鹿野郎なのも全部オレのせいか。いい度胸じゃねえか。この年になるまで自分の性別も分からないウスラトンカチがよく言った!)
結局の所、あまり柔軟とは言えないサスケの思考能力も、度重なる衝撃にそろそろ限界が近く、とどのつまりが・・・ぶちキレた。
「いい加減、観念しろ! 付いてるモノも付いてないくせして、どっからどう見ても女だろうがっ」
「じゃあ、おまえは付いてんのか!」
「当たり前だ!」
「ふ、ふん、ちょっとくらい先に生えたからって威張ってんじゃねえ!」
「・・・おい、ちょっと待て」
何かすごく変なことを聞いた気がする。
血が上った頭も冷めるくらい変なことを。
思わず、まじまじと目の前の相手を見つめれば、ナルトは憤然としつつ真直ぐに睨み返して来て。
少なくとも、冗談を言ってるような目付きではない。
「・・・もしかしておまえ、アレって途中で生えてくるもんだと思ってんのか?」
言った後に、女の子(仮)相手にする会話じゃないと思ったが、この際そんなこと言ってたら事態は進展しそうにないと、ひとまず羞恥心は棚の上に上げておくことにする。
「当たり前だろ? 年頃になったら、男にはちんちんが生えて女の子は胸がおっきくなるってイルカ先生が言ってたってばよ。オレはちょっと他のヤツより遅いけど、そのうちちゃんと立派なのが生えてくるって言ってくれたもん」
案の定、胸を張ってナルトは言ってのけた。
諸悪の根源はヤツか。
更にサスケの目付きが剣呑になる。
ナルトをこよなく可愛がり、ナルト自身も誰より懐いてる人間。
人格的には特に問題ないが、その2点のみでサスケの中のブラックリストの上位に位置する存在だ。
確かにイルカの言うことならナルトは信じるだろう。たとえどんなことであっても。
非常にムカツク。
「馬鹿か、おまえ。だまされやがって」
「イルカ先生はウソなんかつかないってばよ! 火影のじーちゃんだって同じ事言ってたもん!」
「だったら、オレが嘘つきかよ。てめえがそう思うならそれでもいいけどな。なら、カカシも嘘つきか?」
「ここで話を振る?」
サスケに指を指されて、これまで会話に加わらなかったカカシが苦笑する。
へらへらと笑う上忍をサスケは構わず睨み付けた。
「てめえに説明させるために、ここまで来たんじゃねえか。今更部外者面するんじゃねえ」
「いやー、おまえら盛り上がってるみたいだから、遠慮してたんだけど」
「嘘つけ」
「カカシ先生・・・」
縋るような目で見上げるナルトにやれやれと肩を竦めると、カカシはナルトの顔を覗き込みながら優しく話しかけた。
「まあ、結論から言うとだね。ナルト、おまえは女の子だよ」
「ウソ・・・」
「じゃなくて、ほんと」
柔らかく、けれどきっぱりと告げられた言葉にナルトが俯く。
困ったように、カカシが何やら言葉を続けようとした時、
「それじゃみんな・・・、火影のじーちゃんも、イルカ先生も、みんなでオレにウソついてたの?」
顔を上げたナルトの瞳から、大粒の涙がぽろりと零れた。
負けず嫌いで意地っ張りで、およそ涙なんて殆ど見せた事のない相手の流す涙は、はっきり言ってとんでもなく強力だ。
ましてそれが好きな子だったりしたら、平然としてられる奴は男じゃない。(と思う)
とは言うものの、まだまだ経験値の足りないサスケがどうしていいか分からずに呆然と見守る中、ナルトはひくっとしゃくり上げた。
こらえるようにぐっと唇を噛んで、ごしごしと頬をこすって、どうにか止めようと懸命な努力を無視するように溢れ続ける透明な雫。
「やっぱりみんな、オレの事嫌いだからウソついてたのかなあ」
ひどく傷ついたような声音が、サスケの胸に突き刺さる。
きっとナルトにとって何よりもショックだったのは、自分の身体の秘密なんてものではなくて。
家族を持たないナルトにとって、数少ない「安心して甘えられる大人」、信じていたその人達がこぞって自分を騙していたという事。
「ナルト、それはな・・・」
「おい、このウスラトンカチ。」
カカシの言葉を遮ると、サスケはわざと最近使用頻度が減っていた呼び方でナルトを呼んだ。
「・・・ウスラトンカチ言うなっ!」
案の定、ナルトは顕著な反応を示して、きっとサスケを睨み付ける。
「いつまでもベソベソしてんじゃねえよ、ドベ」
「ドベでもないってばよっ・・・それに、ベソなんかかいてないってば!」
ぐいっと勢い良く袖で頬を拭う。
怒りが涙腺を止めたのか、睨み付けてくるナルトの目は真っ赤になってはいるものの、新たな涙の気配はなく。
ふっと気配を和らげると、サスケは目の前の金色の頭にそっと手を置いた。
そのまま軽く、くしゃっと撫でる。
カカシやイルカがよくやっているように。
「サ、サスケ?」
「落ち着いたか?」
穏やかな声音に、ナルトの目が驚いたように大きく見開かれ、やがてこくんと頷いた。
「・・・うん」
「あいつらにも、何か事情があるんだろうよ」
「事情って何だよ。だって先生達、いっつもウソは悪い事だって言ってたってばよ。なのに何でオレにはずーっとウソついてたんだってば」
「誰かのためを思ってつく嘘ってのもあるんだよ。何のためかは知らないし、オレがそんな事されたらムカツクじゃすまねーけど。・・・けど、あいつらに関する限りは、お前を思ってした事には違いないだろうな」
「・・・そ、かな」
(何でオレがあの連中のフォローをしなきゃいけないんだ)
言いながら、サスケは苦々しく思う。
ナルトの信頼を一身に浴びてる奴らなんぞ、本来ならこの隙に一気に追い落しを謀りたいところだが。
「ほんとに? サスケ、ほんとーにそう思う?」
未だ涙の残る目でじっと見上げてくるナルト。
いつの間にかその指は、縋るようにサスケの服の裾を握りしめていて。
そんな様子を見せられては、何でもいいからその不安を取り除いてやらなければいけないと使命感が先に立つ。
「それ以外考えられないだろ。火影もイルカ先生もめちゃくちゃおまえ甘やかしてるからな。おまえの為にならない事をするとは思えない」
「じゃあ、何でそんな嘘ついたんだってば」
更にナルトが問いかける。
真っ赤な目からはまだ不安の色は拭いきれず、裾を握りしめた指は離れる気配はない。
サスケは答えず、じろりとカカシを見遣った。
つられたように、ナルトも同じ方向に目を向ける。
すっかり傍観者モードでクッションにだらしなく凭れかかっていたカカシは、二対の視線を受けて、ゆっくり身を起こした。
「んー、帰ってからじゃダメ? オレより火影様あたりから聞いた方が確かでしょ」
「そんなに待てないってばよ!」
「とっとと吐きやがれ!」
ただし、この上ナルトを泣かすような事言いやがったらマジ殺す。
内なるサスケの脅迫が伝わっているのかいないのか、カカシはうーんと唸りながら口を開いた。
「一言で言えばぁ、女の子の一人暮らしは危ないからv」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
それで?
空色の瞳と夜色の瞳の無言の圧迫を受けて、カカシは更に言葉を継ぐ。
「だからさ、ナルトは家族がいないわけだろ? 男の子って事にしとけば用心になるかなあと皆で話し合ったらしいんだな。オレはその場にいなかったけど」
「・・・で?」
「だから、そーゆーわけ」
「・・・ってどーゆーわけだっ!」
「ちょっとそれひどいってばよ! じゃあオレには教えてくれてもよかったじゃん!」
「ある程度大きくなったら教えるつもりだったらしいけどねえ。ナルト、隠し事出来るタイプじゃないし。てかここまで気付かないとは誰も思わなかったらしくて、教えるタイミング逃しちゃったってゆーか」
うわ、ものすごい説得力。
思わず納得しそうになって、サスケははっと気を取り直した。
「だ、だからって、いつまでほっとくつもりだったんだ?! うっかりどっかで服でも脱いだら一発アウトじゃねえか!」
「上半身見せたくらいじゃ、まだ分かんないんじゃない?」
「区別つくくらいはある!」
「あ、サスケやっぱりばっちり見たのかー」
揶揄するような言葉に、サスケはうっと口籠る。
色々あってうっかり忘れそうになっていたけれど、初めて目にしたナルトの素肌はしっかり脳裏に灼きついている。
真っ白な肌とか微かな胸のふくらみとか華奢な腰とか、更には・・・。
(やべ、思い出しちまった)
かっと首筋が熱くなり、一瞬にして血が上った顔を見られまいと片手で隠しながら、サスケは慌てて顔を背けた。
しかし、ぴとっと幼子のようにサスケに貼り付いたままのナルトがそれを見逃すはずもない。
「サスケ、どうしたんだってば?」
(こっち見んなっ、てか今話しかけるなっ、触るなあーーーっっっっ)
「何かすっげ具合わるそうだってばよ?」
「あはは、大丈夫大丈夫。気にする事ないない。それよりナルト」
内なるサスケの絶叫を十二分に察したらしいカカシは、ほくそ笑みつつちょいちょいとナルトを手招きした。
素直に寄ってくるナルトに、殊更真面目ぶった表情で告げる。
「そーゆーわけで、おまえは女の子なんだから、これからそのつもりでいるように」
そーゆーわけも何もまだ納得できる説明なんか殆ど聞いてない。
「そのつもりってどうすればいいんだってばよ」
「具体的にはサスケに責任取ってもらえばいいから、だーいじょーぶ」
「セキニン? サスケに何の責任取ってもらうんだってば?」
「・・・おい、そりゃどういう意味だ。オレは責任取らなきゃいけないような真似した覚えはねーぞ」
撃沈している間に何やら妙な方向に行きそうな話の展開に、サスケは慌てて口を挟む。
「だっておまえ、ナルトの裸見たでしょ」
「う・・・」
確かに見た。が。
あれは誰がどうみたって不可抗力というもので、責任の有無なんて問題じゃないはずだ。
「女の子の裸、じーっくり隈なく見たくせに、責任取らないなんて、サイテー?」
「語尾上げんな、クソ上司! てかハダカハダカ連呼すんなっ! ナルトに聞こえるだろうがっ」
「裸見ただけで、何の責任があるんだってば?」
きょとんと首を傾げてナルトが問いかけた。
まだ事実が判明したばかりで、当然ながら自覚なんて全くないナルトには、年頃の女の子なら当たり前の羞恥心もこれっぽっちもないようで。
ただ心底不思議そうな表情を浮かべてサスケとカカシを見比べている。
「そ、それは・・・」
カカシが勝手に言ってるだけで、そんな事はまったくない。
と言ってしまうのは簡単だが、この先今までのように自覚なしに無防備でいられては困るし、さてどう説明したものか。
あれこれサスケが悩んでる間に、カカシがしゃしゃり出た。
「そ・れ・は・だ・なv」
不気味なくらい楽し気な口調に、嫌な予感を覚えたサスケが止めるよりも早く。
「嫁入り前の女の子の裸を見ちゃった男はだな、責任取ってその子と結婚しなきゃいけないんだぞー」
「おいこらちょっと待て!」
「よ、よ、よ、よめいりまえってオレのこと?!」
「立派に嫁入り前でしょーが。・・・何、サスケ。おまえこの期に及んで嫌なんて言うわけ?」
「そうじゃなくて!」
むしろそーゆー責任なら取る気満々、というか買ってでも取りたいところだが。
(いくら何でも、そんなデタラメ通用するか!)
と思いきや。
「け、けっこんって・・・オレとサスケが?」
呆然とナルトが呟く。
・・・信じてるし。
考えてみれば、いくら言われたからって自分が男だって疑いも持たなかったようなナルトの事、これくらい信じるのは朝飯前だろう。
さすが意外性No.1。何とも予想外というか期待を裏切らないというか、判断は微妙に分かれるところ。
「おまえなあ・・・」
さすがに脱力感を覚えつつ、サスケはナルトを振り返る。
その途端、
ぽん。
マジに音が聞こえてきそうな勢いで、ナルトの顔が真っ赤に染まった。
「え、えとえと、何かよく分かんねーけど顔がすげー熱いってばよ・・・」
戸惑ったように、ナルトは両手を頬に当てて首を傾げた。
じっと見つめるサスケと目が合うやいなや慌てて顔を背けるが、気になってしょうがないというように、そっとこちらを窺う事を繰り返し。
よくよく見れば、ちらりと覗く首筋まで綺麗な薄紅色に染まっている。
もしかして、これは。
サスケはぐっと拳を握りしめた。
(脈アリ、なのか?)
「うんうん、これで問題解決。じゃ、今後の事は二人でよーく話し合いなさいねー」
「ちょ、ちょっと待ってってば、カカシ先生! そ、それって選択権はないわけ?」
「んー、おまえがどーーーーしてもサスケが嫌!ってんなら、どうにかならなくはないかも知れないけど」
「え、あの、その・・・・・・すげー嫌って程じゃないってば。でも・・・」
躊躇うようにナルトは言葉を一旦切った。
すぐに思い切ったように顔を上げて、
「えっとさ、けっこんって、ずーっとずーっと一緒にいるって約束する事だってばよ? それって、オ、オレはともかく・・・サスケが嫌なんじゃないかなあ」
言いながら、おずおずとサスケの方を見る。
潤んだ瞳で見つめられて、どくん、とサスケの鼓動も一気に速さを増した。
にやにや笑うカカシの姿が目の端に映る。
結局、あの野郎の思うツボかとかなり悔しさはあるものの、こんなチャンス、千載一遇どころかこの先二度とあるとは思えない。
「嫌じゃない」
「え?」
だから、この際最大限に有効利用させてもらう事にした。
「おまえと一緒にいるの、嫌じゃない。だから・・・オレは構わないぜ」
人生万事塞翁が馬。
禍福はあざなえる縄のごとし。
本当に世の中何がどうなるなんて分かりゃしないが、最後さえよければ途中経過なんてどうでもいいし。
とりあえずは。
父さん、母さん、喜んでください。
オレは、一族復興諦めなくてもよさそうです。
→4
やっと終わりました。発覚編。 何か宿題がひとつ終わったような気分です。
続き気になると仰ってくださった方々、ものすごーくお待たせした上に、結局こんなもんになってしまってすみません。
しかしたったこれだけの話に何でこんなに時間がかかってしまったんでしょう。
・・・って、私がとろいだけですね。
一応男装ナルコの話は今後も続けるつもりです。 ただし次がいつになるかはまーったく分かりません(爆)。
あ、最後の諺、意味ちょっと違いますので信じないでくださいね。(あゆりん)
だまされてるだまされてる・・・・ナルト嘘ついてるのはね・・・ってナルトが幸せならいっか。あゆりん長編お疲れ様。(さよ)
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