うずまきナルトには、二つの秘密がある。
 一つは言わずと知れた、腹の中の妖狐。
 これについては、実は里人の半数程が知っていたりするわけだし、秘密と言うより口にしたらいけないタブーとしての意味合いの方が強いかもしれない。
 そしてもう一つ。
 こちらは正真正銘、それを知るのはこの世にほんの数人ばかりという、とびっきりの秘密だ。
 何しろ、当の本人ですら今まで知らなかったくらいなのだから。
 すなわち、うずまきナルトの性別は。
 一見オスのようだがメスである。





 「バカだバカだと思ってたけど、ここまでバカだとは思わなかったわ」
 開口一番。
 すっぱりと言ってのけたサクラに、カカシは笑いを噛み殺した。
 (賢い賢いと思ってたけど、ここまで肝も据わってるとは思わなかったねえ)
 ますます将来が楽しみ、なんてある意味的外れな述懐も、顔の半分以上が口布で覆われ、しかも片手に広げた本の陰になっている状態では、誰も悟ってくれはしないが。
 一方、その言葉を投げ付けられた当のナルトはと言えば、思いがけない台詞に戸惑ったように首を傾げていた。
 「え、えと、サクラちゃん・・・」
 おずおずとサクラを窺うその様は、まるっきり叱られた子犬のよう。
 ぺたんと伏せられた耳が見えそうな気すらする。
 「そこまで言う事もないだろ」
 「あら、そうかしら」
 隣から不機嫌そうに口を挟んで来たサスケを、サクラは余裕でいなした。
 ドベとかウスラトンカチとかのーみそ小さいとか。
 悪口と言うなら、サクラよりもサスケの方が余程、語彙も頻度も豊富にまくしたてていたものだが、自分が言うのは良くても他人に言われると腹が立つ、という手前勝手なセオリーに、どうやらサスケも当て嵌まっているらしい。
 まったく恋する男心は複雑だ。
 「だって、ねえ?」
 ナルトを背に庇いつつ睨み付けるサスケに、好きなコを庇ってると言うよりは雛を守る親鳥みたい、と苦笑を浮かべつつ、サクラは肩を竦めた。
 「12年生きて来て自分がオンナノコって気付かないなんて、バカって言うより間抜け?」
 一応語尾は疑問形ではあるけれど、その表情は寸分の隙もなく確信に満ちていて。
 あう、とナルトは一声呻き。
 少なからず同感ではあったのか、サスケはぐっと言葉に詰まり。
 そしてカカシは、またまたこっそり笑みを浮かべたのだった。





 「そういうわけだから、サスケもサクラもよろしくな」
 状況を分かっているのかいないのか、のーんびりとまったく緊張感のないカカシの声に、子供達は揃って頷いた。
 サスケはごく真剣に、サクラはまだ呆れたような表情を見せながら。
 「でもサクラちゃん、全然驚いてないってばよ?」
 「驚いてるわよ、勿論。でも正直、ツッコミ所多すぎて、どこから驚けばいいのか分からないのよね」
 不思議そうに首を傾げるナルトに、サクラはため息混じりに答えた。
 一体どうして本人にさえ性別を偽るなんて事態が起こるのか、そもそもそんな事成立するのか。
 疑問は尽きないが、目の前の飄々とした上忍に聞いた所ではっきりした回答が返ってくるわけないし。
 かと言って本人に確かめようにも、一番戸惑っているのは当のナルトだったりするのは明らかで。
 いつも元気に騒ぎまくる子が、らしくなくどこか途方に暮れたような風情で、縋るように見つめてきたりなんかしたら。
 某うちはの末裔があっさりノックアウトされるのは火を見るより明らか。というか、現にされてるし。
 里一番の切れ者の名をここ最近ますますほしいままにしている少女にしても、ほだされずにはいられない。
 追求したい事は山のようにあるが、目下の所はこの状況を受け入れて、当座の事を考えてあげるのが最善の行動なのだろう。
 何しろ、この黄色い頭の女の子は、建設的な思考というのが大の苦手なのだから。
 (ま、弟みたいだったのが、妹みたいに変わっただけと思えばいいか)
 なんてあっさり思考を切り替えるあたりカカシの見立ては実に正しく、春野サクラ、どう転んでも将来只者にはなり得そうにない。
 「ふうん? でもさ、やっぱすごいってば! だってオレなんかもう、めちゃくちゃ驚いたもんね」
 「・・・この場合、あんたがそこまで驚くって事がまず一番の驚きだわ。ま、私だって驚いちゃいるんだけど、どっちかと言うと、やっぱりって納得した方が強いかな」
 「えーっっっ、納得って、サクラちゃんってばもしかしてちょびっとでも気付いてたわけ? オレもサスケもぜーんぜん気付かなかったのに」
 「はあ、サスケ君もねー」
 ちろりと目線をやれば、サスケはぷいっと目を逸らした。
 気まずそうな様子に、サクラは含み笑いを浮かべる。
 (あれだけいつも見てた癖に、ちっとも気付かなかったわけね)
 腑甲斐無い気もするが、まあしょうがないと目こぼししてやることにする。
 本人がただ隠してただけならば、この悲しいくらいに裏表のない、はっきり言えば隠し事の出来ない単純な子供の事、もっと早く分かってただろうが。
 (その点で言えば、火影様達のお考えとやらは正しかったんでしょうね)
 それを評価してやる気はないけれど。
 「気付いてたって程じゃないけど、オカシイってカンジ? だってねえ、あんたってば私よりちっちゃいし」
 言いながら、サクラはナルトの目の前に立った。
 丁度目線の高さにある額を指でひとつ弾くと、びっくりしたような青い瞳が僅かに見上げて来る。
 「手首なんて、私の手でも掴めちゃうくらいだし」
 親指と中指で輪を作り、華奢な手首をきゅっと掴む。
 決して大きい方ではないサクラの手ですら、回した指が余るくらいの細さ。
 「腰だって、こーんなに細いのよ!」
 「サ、サ、サ、サクラちゃーんっっっ」
 いきなりぎゅうっと抱き着かれて、しかも腰に腕を回されて、これ以上ないくらいの密着状態にナルトの顔はゆでダコ状態だ。
 一応女の子であるとはいっても何分初心者マークのナルトの事、まだまだ男の子の感覚が強いわけで、好意を寄せていた少女との接触に平静でいられるわけもない。
 柔らかい感触とかふんわり漂ういい匂いとか、なんかちょっとイイキモチなんて思ってしまうのも仕方ないけれど、やっぱりどうにも落ち着かなくて恥ずかしい。
 が、じたばた暴れて逃げようとしても、さすがサクラと言うべきか、腕力の無さを技術でカバーしたツボを心得た押さえ込みは、到底ナルトの及ぶ所では無く。
 「ホントあんたって、どこもかしこも細すぎ! これで男だったら殺意が芽生えてるとこよ」
 「ふ、ふえ〜〜」
 ますます強くなる締め技・・・もとい抱き着きになす術などあろう筈もなく、ただ翻弄されるのみ、であった。





 「・・・いい加減にしろよ」
 どうしようもない状況からナルトを救ったのは、当然のごとく、というかここで出て来なければ嘘だろう、のうちはサスケ。
 低い声と共に勢い良く肩を後ろに引かれて、ナルトの身体はぶつかるようにサスケの腕の中に転がり込んだ。
 「サスケェ〜」
 「嫌がってんだろうが。しつこいぞ」
 ほっとしたように見上げるナルトを後ろから抱き込むようにして、サスケは思いっきりサクラを睨み付けた。
 何とも警戒心バリバリの表情に、まったく心が狭いわね、と内なるサクラはにんまりと笑みを浮かべるが、勿論そんな事おくびにも出さず。
 「そんな・・・私はただ、ナルトと仲良くしようと思っただけなのに。ナルトは、そんなに私が触るのイヤだったの?」
 代わりに見せたのは、傷付いた声音と悲しそうな目。
 「そ、そんなことないってばよ、サクラちゃん!」 
 そんな表情を向けられてナルトがそのままにしておける筈がない。
 拒絶される悲しみをよく知る子供は、自分が誰かにそんな感情を与えるなんて耐えられはしないから。
 ナルトは慌ててサスケの腕を振りほどくと、サクラに駆け寄った。
 (・・・引っかかりやがって)
 取り残されたサスケがちっと舌打ちしたのも気付かずに。
 「オレ、ちょっとびっくりしちゃっただけだってば。全然嫌じゃないってばよ。オレだってサクラちゃんとたくさん仲良くしたいもん!」
 「良かった。ほっとしたわ」
 にっこりと微笑みながら、サクラはナルトの手を取る。
 ぎゅっと手を握られて再びナルトは真っ赤になるが、サクラの笑みにつられたように、照れくさそうな笑顔を見せた。
 「じゃあ、私達これから親友ね」
 「しんゆう?」
 「だって私達、7班で二人きりの女の子じゃない」
 一人きりの男の子であるサスケの立場はどうなる、なんてツッコミは誰からも為されず。
 ナルトは目を丸くして首を傾げた。
 「えとえと、親友って、一番仲のいい友達の事だってば?」
 「そうよ。私とじゃ嫌?」
 サクラの問いに、ナルトはぶんぶんと首を振った。
 脳みそが零れ落ちてしまうんじゃないかと思うくらい、そりゃもう勢い良く。
 「そんな事ないってば。オレ、すっげーすっげーウレシイ!」
 心底嬉しそうに、ナルトはぽうっと頬を紅潮させている。
 そんな表情を浮かべれば、この痩せっぽちの男勝り(というレベルかどうか)の子供からも、年相応の少女らしい柔らかさや華といったものが感じられる。
 元々顔立ち自体は決して悪くないし、有り体に言えば、ひどく可愛らしい。
 (あー、なんかメロメロになっちゃう誰かさんの気持ちが分かるかも)
 そんな事を考えながら、件の誰かさんの方をちらと窺うと、案の定、薄ら赤い顔をした黒髪の少年がそこにいた。
 視線が合った途端ぷいと顔を背けるサスケに、サクラは本日何度目かの失笑を辛うじて堪える。
 羨ましいならそれらしい様子を見せればまだ可愛げがあるというか、ナルトにも色々と伝わりやすいと思うのだけど。
 まあ、それがうちはサスケという少年の、あまり得になるとは思えない特質なのだし。
 だからこそ、色んな楽しみ方があるというもので。
 かつて彼に恋していた乙女とは思えない思考を巡らせつつ、サクラはナルトに向き直った。
 「私もとても嬉しいわ、ナルト」
 「で、でもやっぱ、これってちょっと恥ずかしいってば・・・」
 再び抱き着かれて、ナルトはもじもじと身を捩る。
 「何言ってんの。こんなの女の子のスキンシップの初歩じゃない」
 「しょ、初歩なの?」
 「心配しなくてもいいわよ。私が色々教えてあげるから」
 「ホント?! サクラちゃんって、やっぱすっげ頼りになるってばー」
 ぱあっと顔を輝かせるナルトに、サクラは一瞬言葉を失った。
 何と言うか、この信じ切った眼差しが。
 (不意打ちじゃない。参ったわ・・・)
 「サクラちゃん?」
 「・・・まったくもう、あんたって」
 何でこう可愛いの!と、何とはなしに目覚めてしまった母性本能に従って、サクラはますますぎゅうっとナルトを抱き込んだ。
 照れながらも嬉しそうに顔を綻ばせるナルトの表情が、悔しげに見守るサスケにもばっちり見えるよう、角度も調整済みだ。
 「いやー、もんのすごい強力な小姑ができちゃったねえ」
 「・・・うるせえ」
 のほほんとした上忍と苦虫を噛み潰したような少年の会話には気付かない振りをして。
 「サクラちゃん、だいすきー」
 「私もよ」
 にっこりと、文字どおり花のようにサクラは微笑んだ。
 ・・・見る者によっては悪魔の笑みに見える事まで計算済みかどうかは、定かではない。
 
 
 
 

 




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 私、骨の髄までサスナラーです。しかもどこに出しても恥ずかしい筋金入りのサスケスキーだと自負しております(笑)。
 しかし、白状します。今回のサクナルいちゃべた、めっちゃくちゃ楽しかったvvv
 女の子は地上最強の生き物であるっつーのが密かなモットーなのですが、サクラちゃんの強者っぷりは既にそーゆー問題じゃない気がする・・・。




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