「まじい、おくれちゃったってばよー!」
どたどたとけたたましい足音を立てて、金髪の少女が放課後の誰もいない廊下を走る。
決戦にいざ行かん!と思っていたところをイルカ先生に首根っこつかまれて罰掃除なんかさせられて。
やっと終わったのはもう、終業して一時間半も過ぎた頃。
「絶対もういないってばー!!」
サスケと放課後の決闘!そりゃもうわくわくして罠なんかいっぱい仕掛けて来たってのに。
「あ?」
「・・・・よう。」
(わあ、いる、まだいたってばよ。)
「ずいぶん杜撰なおもてなしだったな・・この程度でおれがひっかかるとでも思ってんのかよ、馬鹿」
木に背をもたせかけたまま、黒髪の少年がぽい、とちぎれた縄を投げやる。
「ばか?ばかってなんだってばよ!しっつれい!人が精魂込めて」
「落とし穴とかロープとか?随分たくさん仕掛けてくれたよなあ。」
「だ!だって!忍者の勝負っていったらこんなの当然じゃん!」
「だから、誰が決闘なんて言ったよ!」
「放課後の裏庭に呼び出しっていったら他にないじゃんか!」
「・・・・あるだろ、他にもいろいろと・・」
「あ、リンチとか?サッイテー!」
「じゃなぃ!」
「・・・・????じゃ、なに!」
思いつかない、とばかりに少女は首を横に大きく傾げて見せる。
「なにって・・・」
「用がないなら帰るってばよ!」
決闘じゃないなんてがっかりもいいところ。くるりと踵を返したところでぐいと腕をつかまれた。
「おい、おまえ、・・・」
「俺は”お前”って名前じゃないってば!」
むかついて睨んだら
「じゃあ、なんて呼べばいいんだよ」
「・・・う・・」
墓穴を掘った。ホントの名前を言うわけにはいかない。
「な、な・・と・・」
思いつかない。わあ、どうしようか、困ってしまって。
「なと?」
「なっとー!う、うずらなっとう!だってばよ!」
もう知るもんか、と適当に自分の名前をもじってつくってしまった。
「うずら、なっとう・・・」
サスケはちょっと考えて口の中で復唱する。
サスケの記憶するに鶉家はたしか隠れ身の術系を得意とした一族だったはずだ。
たしかどこかの大名家と酷い確執があって殆ど死地に赴くような任務を与えられて
10年以上前に直系は途絶えたと聞いている。
目の前のこれがその血を引くとすれば名前を言いたくないのも道理。
名簿に出ていないのにも、いろいろな事情があるのだろうなどと勝手に推測する。
「・・・・いい、名前じゃねえか・・」
「そ、そう??」
思慮の足りない事を聞いてしまった、と思いつつ、サスケは更に質問する。
「おい、なっとう、家族は?」
「は?そんなのいないけど・・・」
(それで、親もいなくて、イルカを親とでも勘違いして引っ付いてやがるのか。)
それはそれで不憫だと、かすかに自分の境遇とすり合わせて溜息をつく。
「あの・・・?」
黙り込んだサスケに困惑して覗き込むとちょっとだけ優しい目。
心臓がいきなりばくばくして、苦しくなる。
(ななななんだってばよ・・・・!)
「これ、やる。」
「は?」
サスケは綺麗にラッピングされた薄い白い箱を、ぶしつけにナルトの目の前に押しやる。
「な、なに?おれに?なんでなんで?」
「・・・あけりゃ分かる」
ナルトにはさっきからワケのわからないことが続いている。
決闘するんじゃなくて?
俺の名前なんか聞いて?
プレゼント・・・って??
おまけになんだかドキドキしちゃって、おれってばなんかヘン。
そしてガサガサと箱を開けたところで、思考回路がショートした。
「・・・なんだってばよー!!!!」
入っていたのは、女性用下着、ぶっちゃけていえばブラジャーだった。
「こここここんなの、付けれるわけ、ないだろ!!」
思いっきり動揺してそういうと、ムッとするサスケの顔が目に入る。
「着けろよ、目障りなんだから!」
「め、目ざわりって」
「・・・・揺れると目がいくだろ!」
横を向いて真っ赤になりながらサスケが言う。
(まさか!お色気、効いちまったのかあ!?)
「垂れちまうって言うし・・」
「やだってばよ!」
女の子に化けるのはいいけど、変態じゃあるまいしそんなの絶対着けたくない。
「てめえ、人がどんだけ恥しい思いして買ってきたと思ってんだ!」
「・・って、これ、サスケが買ったのか?」
素朴な疑問に、一瞬硬直して、ホントに顔中真っ赤になって。こくりと頷く。
***********
時は一日前に遡る。
「サクラ、ちょっと聞きたいんだが」
放課後、いのを出し抜いてサスケに会いに来たサクラにサスケが珍しく口を開く。
「なあに、サスケクンvvvv」
誰もいない教室で二人きり。可憐な美少女を前にうつむく美少年、なんて絵になるシチュエーション。
真剣な彼の顔に高鳴る乙女の胸は、シャーンナロー状態。
「お前胸どのくらいだ?」
ガッターン!!
鉄拳まで0・05秒。
「きゃあ、ごめんなさい、サスケ君!」(ヘンな事聞くからナルトが化けてるのかと思ったのよー!!)
思いっきりの顔面パンチに床に吹っ飛んだサスケを本人だと確認して介抱する。
「いや、俺も妙な事を聞いた・・・すまない・・・」
「ううん、そんなこと・・・・・・」
「すまないついでにそれともうひとつ・・・」
「な、なあに?」
今度聞かれたらもう何でも答えちゃおう。サスケ君ったら私のサイズ気にするなんていやんやっぱり男の子?
ってかひょっとして私に興味あるの?ああもう、とにかくメルヘンの予感ー??
サスケ君なら触ってもいいけど、でもあたしって胸ないし、いやでもそれがいいっていってくれたりとか?
「おまえら、その・・・・下着とかってどこで買ってるんだ?」
引きつって声のでないサクラを一瞥すると、サスケは深く溜息をついて立ち上がった。
「すまねえ、・・・・忘れてくれ・・・」
「あ、待って・・・その、・・・理由があるのよね。」
どうしても必要なのかもしれない、とサクラは思い直す。立ち直りは早い。
「ああ。」
「今から買いにいくの?」
「・・・まあ・・・」
「あの、あたし、一緒にいくわ。」
「いや、しかし、その・・・だが、・・・・そう、だな、・・・・・・助かる。」
「うん!」
彼と一緒に買い物と思えば、デートのようなもので。これはこれでチャンスなのだ。
かくしてデート気分のサクラに案内されたのは木の葉デパートの3階にある女性下着売り場。
なんでもここが品揃えが揃っているとのこと。
「どんなの探すの?」
「どんなの、って・・・どんなのがあるんだ?」
色とりどりの様々なデザインの下着に囲まれて困惑しているサスケ。
(こんなサスケ君が見られるなんて超ラッキー!なんか、襲いたいくらいかわいー!)
「いろいろあるのよ、パッドとかも付いてたり、寄せたり上げたり・・・」
ほら、と指し示すいくつかをむにゅうと手で触ってサスケはしみじみと呟く。
「女って、大変なんだな・・・」
なんとか目も慣れてきていろいろと見て回るがどうも普通に置いてあるものはサイズが小さいような気がする。
(もっとあいつの胸はこう・・・・)
「いらっしゃいませ、何をおさがしですか?」
不審にうろつきまわる少年に店員が声をかける。
「・・・・ブラジャーを・・・」
「おサイズはいくらぐらいでしょうか?」
「でかいんだけど、その・・・このくらいで・・・」
真っ赤になりながら手で胸のふくらみを丸く作って見せる。
「確かなおサイズが分かりませんと・・・」
店員はかなり引き気味ながらも、営業スマイルを保ちつつ冷静に質問してきた。
「お客様、もしかすると忍者でいらっしゃいます?」
「・・・ああ」
「よくいらっしゃるんですよ、変化の術に必要だとか変装に使うとか・・
お客様もしよろしければ変化いただいておサイズを測らせていただけませんでしょうか。」
今度はサスケが硬直した。
「・・・・・へんげ?」
「はあ、そうしないとサイズが合いませんので・・・」
「あたしもそれがいいと思うなーv」
後ろからにっこりと、悪魔の声。
かくして、サスケにとっては声もでない悪夢に、実測まで楽しくお手伝いをしたサクラは
「誰にも言わないわv今日は楽しかったわよ。また誘ってねー。」
と燃え尽きた少年を後に、実に楽しげに帰っていったのだった。
*********
あんな恥しい思いをしたのに。ほんとに死ぬほど恥しかったのに。
目の前の女は、一言・『やだ』だという。
「うぜえんだよ!んなもん目の前でちらつかせやがって!」
「って見なきゃいいだろ!関係ないだろ!」
「・・・・って」
言い返そうとして、ぎくりとした。
きゃんきゃんとまくし立てる少女は前のめりの格好で谷間があらわになって、
薄物の忍者服は慣れてきた目に帷子とその奥の肌を薄く透かしていた。
胸の形も、細かな凹凸さえも。
(・・絶対・・やべえだろ!!!)
目は離せないのに口に出せず、全身がかあ、っと熱をもつ。
「・・・ってそんだけなら帰るってば!」
「待てよ!なっとう!」
手を掴んで引き寄せるとそれまで背にしていた木に少女を押し付ける。
「なにすんだってば!」
「このまま帰る気か?」
「だったらなんだってば!」
「・・・・透けてる。」
「は?」
「気付かなかったのか・・・胸、・・・そんな薄物じゃ・・・」
「げえ!!」
この格好はイルカ先生とサスケの前でしかした事なかったから、知らなかった。
サスケが指でつん、っと突起をはじく。
「全部わかっちまう・・・・」
「・・やあっ・・・!!」
驚いて出した声は自分のものでないほど上ずって。
それでも本人が思うのよりもずっとそれは微かな声で。
うろたえて上目使いにサスケを見やって、ぎくりとする。
(まずい何がなんだかよくわからないけどなんだかめちゃくちゃまずいってばようー)
『彼はやる気だ』
本能的に直感する。逃げなくては。動こうとして両脇をしっかりと固められた。
むにゅ。
両胸にサスケの手が伸びて掴み上げる。
「!!!!!」
息を呑む。あまりのことに頭が真っ白になって声も出ない。
サスケはそのまま自分の体ごとナルトを木に押し付けて動けないようにすると
今度は忍者服の肩ひもをはずしにかかる。
「や・・・・ちょとちょとちょとちょと・・・・」
わたわたするナルトの肩口にうずめていた顔をあげるとにやりと笑う。
「・・・なんとしても付けてもらうぜ。」
「いややややややややややだってばようー!!!」
サスケがしっかりと胸のサイズを確認した上でブラを付けさせにかかっている事に気付くと
大慌てで必死に抵抗を始める。幸い鎖かたびらは脱がせづらい。
しかしすでに忍者服は肩ひもをとられてはだけ、帷子の向こうに白い肌が露だ。
「やややややややめめやめやめやめるってば!!!!」
(んなもんつけさせられたらお婿にいけない。
てか変態じゃんかようー!!!)
だがいくら服や髪を引っ張ってみても背中を叩いても足を蹴ってみても効果がなく。
かえって動けないように拘束されて。
「やめろってば!おれおれおれが悪かったってばようー!!!!」
思わず涙顔で訴える。
「ほんとはこれ変化で嘘胸なんだってば!」
「・・んだと・・・?」
「だからそ、そんな胸当てなんかいらないんだってば」
サスケの手が止まる。半泣きの少女の顔とすでに露になった胸とを交互に何度か見比べ、ゆっくりと離れた。
「なんだって・・そんなこと・・・・」
「サ、サスケ胸の大きい子のが好きかなー、と思って・・・それで」
サスケは手に白い布を持ったまま、じっとこちらを見ている。
「別に・・・胸が好きなんじゃねえ・・・・」
「でも俺ホントは・・・こんな長い髪でもないし」
「髪なんか短くてもいいだろ」
「・・・・・・」
「好きだ!なっとう!」
「いや、俺・・・」
「俺は、お前の事、はじめて見た時から・・・ずっと・・・」
「あの、だから、その外見が嘘物なんだって・・・」
「お前は俺じゃだめか?」
「いやだめだとかそういう問題じゃなくてもっと・・・」
「好きな男がいるのか?」
「んなもんいねーけど・・・」
「お前がほんとはなんだって構わない、お前が好きなんだ、なっとう・・・」
心奪われたのはあの日。奥底からなにか、弾かれるように衝動がはしった。
「それは・・・その・・・・嬉しいけど・・・でも・・・」
「でも?」
「ほんっとーに胸もないし」
「ああ」
「ゼンッゼンかわいくもないし・・・」
「・・・・そうか・・・」
「ずっとひとりぼっちのキラワレモンだし・・」
「・・・んなの・・・俺が側にいる・・・」
「・・・でも・・・きっと正体知ったら、おまえも嫌いになるって・・・」
「嫌いになるかよ!うちはの名をかけてもいい!」
「嫌いになる!」
「ならない!」
「絶対!」
「死んでもだ!!」
「・・・これでもかよ!・・・」
ぽん、と音を立てて煙から現れたものに。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もちろんだ・・・」
長い沈黙の後、後に引けないうちはの末裔はそういった。
→4
・・・・・・・・・サスケスキーの方ごめんなさいでしたー。