思考が止まる。
 ついでに身体も動かない。
 これが俗に言うフリーズって奴か、とサスケは辛うじて残った冷静な部分で考えた。
 フリーズ。ひどく驚いた時や思いがけないことを見たり聞いたりした時にすべての活動が止まる現象。
 話には聞いていたが、自分にそれが起こるとは思わなかった。
 ナルトの涙を見たのは初めてで、しかもそれが自分が引き起こしたことなんて、後悔とか罪悪感とかなぜかちょっぴり優越感らしきものまで感じる中で。
 『そんなの本当なわけないってば!』
 ぐるぐるとリフレインするナルトの言葉。
 この場合『そんなの』が指しているのは直前の会話のことで、その内容と言えば。
 「・・・・・つまりおまえは、オレが一緒でもそれ程嫌じゃないってことか」
 ようやくサスケの頭の中で、その言葉がはっきりと意味を持った。
 けれど、それを容易く信じる気にはなれない。
 ここで下手に喜んで、やっぱり違います、なんてことになったら本当に立ち直れなくなりそうだ。
 サスケとしては精一杯下手に出てみたつもりの問いかけだけれど、ここまで来ても平素と些かも変わらない無表情かつ平坦な口調は、そんな内心をこれっぽっちも伝える余地はない。
 ナルトは、ますます不機嫌そうに眉を顰める。
 似合わない眉間の皺に、赤い目元が痛々しい。
 「嫌だったら、わざわざ迎えに来るわけないだろ。おまえの方こそ、嫌なら嫌ってはっきり言えってば」
 「それこそ、オレがいつそんなこと言った?」
 「一緒にパーティーなんて願い下げだって言ったってば!」
 「おまえの方が先に、嫌だけど我慢するなんて言ったからだろうが」
 「だからそれは、本当じゃないってばよ!」
 これじゃ堂々巡りだ。
 サスケは深くため息を吐いた。
 見ればナルトは、興奮のあまりか頬はうっすら紅潮して、ぜいぜいと肩で息をしている。
 なんで、ここまで必死なんだろう。
 ふと芽生えた疑問。
 「本当に嫌がってるのはおまえの方だろ! さっきだって、オレと一緒に居たくないって言ったくせに!」
 ドキリ、とサスケの胸が鳴った。
 もしかして、もしかしたら。
 「でもオレはそんなの嫌だってば。せっかくみんなで、オレの好きな人達ばかりでパーティーするのに、おまえ居なかったら全然ダメじゃん!」
 こんなに泣くほど必死な顔をして。
 こんなに冷え切ってしまうまで待っていてくれたのは、全部。
 (・・・・・オレのため、か?)





 「オレは、おまえと居るのが嫌なんじゃない」
 一息に、サスケはナルトにそう告げた。
 びっくりしたように見開いた青い目から視線を逸らしたい気分になったが、どうにか堪えて。
 ヤなことばかり言うダイキライな奴のために、ナルトはここまで来てくれた。
 だから今度は自分が、精一杯の本当のコトを伝えなければいけないし、伝えたいと思う。
 けれどやっぱり、ナルトはまだかなり疑わしそうな顔でサスケを見つめていた。
 「だって、さっきそう言ったってば」
 「おまえの言葉を借りるなら、それは『本当じゃない』。そっちが先にあんな事言うから、単なる勢いだ」
 「うわ、人のせいにしてるってばよ〜」
 表情はまだ今ひとつ冴えないが、それでもナルトはサスケの言葉にほっとしたらしい。
 その口調からも表情からも緊張が消えて、雰囲気が柔らかくなった。
 それに勇気を得て、サスケはそっとナルトの頬に手を伸ばす。
 正直おっかなびっくりだったけれど、ナルトは驚きはしたものの逃げるそぶりは見せなかったので、思い切って濡れた目元を指でぬぐった。
 「泣いてんじゃねえよ」
 「な、泣いてなんかねえ!」
 「擦るな。目が腫れるぞ。サクラ達にからかわれてもいいのかよ」
 慌てたナルトがごしごしと袖で頬を擦るのを止めさせて、サスケは言葉を続ける。
 「おまえは、オレが一緒でも嫌じゃないんだな?」
 「最初からそう言ってるってばよ」
 「ダイッキライな奴でも?」
 「だからそんなの本当じゃねーの! 何度言わせれば分かるんだってば」
 拗ねたような呟き。
 不機嫌に眉を顰めたままの言葉だったけれど、それでも。
 サスケは心底ほっとした。
 安堵のあまり全身の力が抜けそうになるのを辛うじて堪える。
 ナルトに、嫌われているわけじゃない。
 それどころか、「好きな人」の範疇に入れてもらえてるらしい。
 それはサスケの持ってる「好き」とは違う意味合いだろうけれど、それだけでもこんなに嬉しいなんて。
 つくづく末期だと思うが、しょうがねーだろ好きなんだからと、誰にともなく開き直ってみたりする。
 「で、どうするんだってばよ、パーティー」
 はっと我に返ってみると、ナルトがじーっともの問いたげに見上げていた。
 「おまえが嫌じゃないなら行く」
 「そーじゃなくて、おまえがどうしたいか聞いてるんだってばよ!」
 パーティーに引っ掛けてはいるけれど、違うことを問いかけていることくらいは、サスケにも分かった。
 それくらい察しろよウスラトンカチ、と反射的にいつもの悪態が出そうになるが、寸前で止める。
 ここで失敗したら目も当てられない。
 「おまえが行くんだったら、行きたい。・・・・・おまえと、居たいから」
 思い切って、それこそ火影岩から飛び降りるくらいの決意で口にする。
 さすがに面と向かって言う勇気はなくて、そっぽを向いたままであったけれど。
 笑われるか呆れられるか気色悪がられるか。
 それなりに覚悟はしていたが、いつまでたってもナルトから何の反応も返ってこない。
 そっと横目で窺ってみると、ナルトの顔は見事な朱に染まっていた。
 着ているサンタ服も目じゃないってくらいに。
 「ななな、何言ってんだってばよ!」
 声は引っくり返っているし、目が合うなり慌てて背を向けようとした挙句、右手と右足を一緒に出して転びそうになったりして。
 「何やってんだ」
 「何でもねー!」
 支えようとしたサスケの手は、ひどく慌てた様子で振り払われた。
 「そ、それじゃカカシ先生んちに急ぐってばよ。サクラちゃんも待ってるし」
 言いながら歩き出す後ろ姿は、ひどくぎくしゃくしていて。
 呆然とサスケがそれを見つめていると、数歩歩いたところでナルトが振り向いた。
 「サスケ?」
 その顔はさっきよりますます赤くて、尚且つどこか心配そうな様子で。
 「今行く」
 サスケの言葉に、ほっと笑みを見せた。
 (・・・・・反則だろ、それって)
 つられて、サスケの頬も熱くなってくる。
 ひょっとして、これって。
 思うよりずっと、自分はナルトに好かれてるんじゃないだろうか。
 (やべえ、顔が緩む)
 赤くなった顔を見られまいと帽子を目深に被って隠しながら、サスケはナルトの横に並んで歩き出した。





 「ひとつ聞きたいんだが」
 道程の半分ほどを過ぎた頃。
 降り続く雪に辺りは白く染まり、冷え込みも一段と増している。
 クリスマスとは言っても、さすがにこの天気じゃ出歩く人も少なくなっていて。
 お互いの足音の他に殆ど聞こえるものもない中、サスケは疑問を口にする。
 「最初にオレが来た時、おまえ笑ったろ。あれ、何でだ?」
 「あ、あれは〜〜〜〜」
 「言いたくなきゃ、別にいい」
 「そういうわけじゃないけど」 
 ナルトは小さくため息を吐いた。
 あーとかうーとか言いながら、どう話し始めればいいか迷ってるようで。
 「あん時オレ、すっげーたくさん待ってたんだってば」 
 「ああ」
 「おまえ、いつまで経っても来ねーし」
 「ああ」
 「めちゃくちゃ寒いし、雪まで降って来るし」
 「そうか」
 「嫌われてる相手のために、何でこんな事してるんだろうって思ったってばよ」
 「・・・・・悪かった」
 「でもさ・・・・・だからかな。やっとおまえ来た時、すげーうれしくって、他の事考えらんなくなった」
 「・・・・・」
 「おまけにサスケってばサンタの格好のままだから、これってサンタさんがプレゼント持って来てくれたみたいだなーって思ってさ。・・・・・あーやめやめっ! 何言わせるんだってばよ!」
 照れたようにナルトは腕をぶんぶん振り回した。
 その勢いのままずんずんと歩き始めて、見る間にサスケと数歩の距離が開く。
 「・・・・・オレだって」
 その後ろ姿に、サスケはぽつりと呟いた。
 家の前にぽつんと座っていた赤と金と青。
 クリスマスなんてどうでもよかったサスケだけれど、そこに見つけたのは世界でただ一人のサンタクロース。
 これがプレゼントならいいと、あの時思った。
 これがプレゼントなら、この先何もいらないと思った。
 そんなこと、まだ言えないけれど。
 いつか、言えたらいい。
 「望みも出てきたことだしな」
 呟いて、サスケはかすかに笑みを浮かべた。





 「サスケー、何してるんだってば。おいてくぞー」
 「うっせーな、てめーこそあんまり慌てて転ぶんじゃねえぞ」
 「よけいなお世話だってばよ!」
 ぷうっと頬を膨らませるナルトの顔は、まだほんの少し赤い。
 多分、自分も同じだろうとサスケは思う。
 気恥ずかしさはあるけれど、なぜだかふわりと心の中は暖かい。
 「早く行こうってば、サスケ」
 にこりと笑って差し出してくるこの手を、手放す気も諦める気もこれっぽっちもないから。





 今日、目の前に舞い降りたのは、手ぶらのサンタクロース。
 プレゼントなんかいらないから、来年もその次も、ずっとやって来てくれますように。




 




 
 3←








 終わりましたー。いや、終わるとは思わなかった。マジで。
 うちによく来てくださる方はご存知でしょうが、私連載がとっても苦手で、とゆーか適性まったくなくて。
 ある程度書くと別の話を書きたくなってしまうという悪癖を持つため、大した長さじゃない話でもいつまでも完結しなかったりします。(一年以上経って続きを書き始めたりするので、飽きっぽいのとはまた微妙に違う気がする)
 クリスマス話にそれはヤバいので、とりあえず公開しちまえば嫌でもクリスマスまでに書くだろうと敢えて崖っぷちに立ってみたのですが。もう途中で何度飛び降りてしまおうと思ったことか(笑)。
 でもその挙句がこんな話って、どうだろう。サスケ、いまだかつてない程奥手かつ女々しい奴に成り下がってる気がする。しかもクリスマスなのにこんなに糖度が低くてよいのかしら。
 書き残したことがちょっとだけあるので、後日おまけSSとしてアップしたいけど予定は未定。大した話じゃないけどね。
 読んでくださった方々、ありがとうございました。





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