馬鹿みたいだ。
 じゃなくて、本当の馬鹿じゃないか、オレ。
 胸の中でぼやきながら歩くサスケの足取りは重い。
 楽しげな人々の群れと鳴り響くジングルベル。
 鬱陶しいことこの上ないが、こんな気分のまま家に帰る気は、まだしない。
 いつもの演習場で一通り修行でもしてくれば少しはすっきりするだろうが、あいにくと着替えも持たずに走り去ってしまったため、任務で使ったサンタの衣装のまま。
 伸縮性も吸湿性もあまり良くなくて動き辛いという実際的な理由以上に、こんな格好で真剣に修行に励むというのは非常に見た目がよろしくない。誰かに見られたら立ち直れないかもしれない。
 そういうわけでサスケはなんとなく街中をうろついているのだが、これは失敗だったかもしれないと思い始めていた。
 道行く人は誰も彼も浮かれていて、余計に苛立ちが募る。
 きっと今頃ナルトも、サクラとカカシに囲まれて、嬉しそうに笑ってるんだろう。
 それはちょっと見たかったかもしれない、とサスケは思う。
 たとえ自分に笑いかけてくれなくても、あのお日様のような笑顔を見られるのなら、それだけでも。
 けれど。
 『おまえなんか、だいっきらい!』
 思い出す度、胃の辺りがキリキリ痛む言葉。
 どれだけナルトが単細胞で三歩歩けば全部忘れてしまうようトリアタマでも、さすがにさっきの今で機嫌を直してくれるとは思えない。
 そして、一緒にいればまた何かで新たに怒らせてしまうだろう自信が、悲しいことにサスケにはある。
 これを機に仲直りをというカカシとサクラのお膳立て、仮に乗っていたとしても裏目に出ていただろう事は予想に難くない。
 我ながらつくづく嫌になる、内なる己と直結してくれない(ある意味直結しすぎているのか)この口の悪さ、責任を問うとしたら、亡き両親か、思い出すのも忌々しい兄か、それとも。
 (やっぱ、自分のせいか)
 自覚はある。あるから余計に気が重い。
 よりによってこんな日に、好きな相手と喧嘩して。
 それだけならいつもの事と諦めがつくとしても、あちらから多少なりとも示してきた譲歩を蹴っ飛ばしてしまった。
 後悔なんか、おもいっきりしまくりだけれど。
 仕方ないからガマンしてやるなんて言われ方、プライドが許さないと言うよりも、それによって受けた傷は思いがけず深かった。
 好かれてるとは思っていなかったけど、我慢しなきゃいけない程嫌われてるとは思わなかったし思いたくなかった。
 きっとナルトにとっては深い意味も考えずに言った言葉かもしれないが、無意識だからこそ本音なんじゃないだろうか。
 自分で導き出した答えに、サスケの気分はますます沈み込む。
 おまけに。
 そこまで言われてもなお諦めきれない、ナルトを好きだと思う気持ちは少しも減じてくれない、厄介な自分の心。
 ・・・・・ああ、本当に胃が痛い。




 
 「ほら、雪よ」
 「ホワイトクリスマスなんて、久しぶり」
 周囲のざわめきにサスケは空を見上げた。
 すっかり暗くなった空から舞い降りてくる白い花びら。
 頬に当たる冷たい感触に身を竦めつつ、思うのはやっぱりただ一人のことで。
 あいつも、この雪に気付いただろうか。
 『パーティーなんて、初めてだってば』
 本当に嬉しそうに目を輝かせていたナルト。
 大好きな人達に囲まれて、おあつらえ向きに雪まで降ってきて、きっと子犬のようにはしゃぎまくっているだろう。
 楽しいこと尽くしの初めてのクリスマスパーティー、それを心ゆくまで堪能してくれれば、そうしたら。
 今日遭ったイヤな事なんか、ころっと忘れてくれるに違いない。
 きっと明日の朝にはいつものように、『おまえには負けねーってばよ』なんて毒づきながらまっすぐな目を向けてくれる。
 (・・・・・だったら、まあいいか)
 今日だけは、カカシとサクラに期待をかけさせてもらおう。
 あんまり抜本的解決になっていない、甚だ他人任せな希望を抱きつつ、サスケはようやく自宅へと足を向けた。

 



 あ、クリスマスカラー。
 家の前で蹲るモノを見て、サスケは瞬間的にそう考えた。
 膝を抱えて座り込む小さな姿は、遠目には赤いカタマリにしか見えない。
 目深にかぶった帽子の端からは金色の髪が覗いていて。
 これに緑があったら完璧だけど、気配に反応して振り向いた瞳は澄んだ空色。
 クリスマスカラーとは違っていても、それでも、サスケにとっては何よりキレイな青。
 サスケの姿を映して、一瞬だけ笑みを浮かべた。
 「・・・・・ナルト」
 こんな幻を見る程自分はイカレてるのかと、サスケは呆然と呟いた。
 よりのよってこの時間、この場所にいる筈のない姿。
 まして、こんな風に自分に笑いかけるなんてありっこない。
 しかし。
 「おせーってばよ、サスケ!」
 すっくと立ち上がって喚き始めた甲高い声に、これが紛れもない現実だと知った。
 けれど不機嫌そうに唇を尖らせてサスケを睨み付けてくる表情からすると、少なくともさっきの笑顔だけは願望が生み出した幻に違いない。
 がっかりするというより、それが当たり前だとサスケは自嘲的に思う。
 「何でおまえがこんな所にいるんだ」
 「何ではオレの台詞だってばよ。おまえがいきなりワケ分かんない事言い出して帰ったりするから、悪いんだろ」
 「ワケ分からない事なんか言ってねえぞ」
 「ゆったってば!」
 ムキになって言い募るナルトの顔が思いがけず近くにあるのに気が付いて、サスケは思わず後ずさる。
 こんなに近づいたら触りたくなっちまうだろドベ、なんて思っても、当然ながらナルトにそれが通じるわけもなく。
 ナルトはサスケの襟元を掴まえると、ますます顔を近づけてくる。
 「オレがいない方が楽しいだろ、とかヘンな事言ったじゃんか」
 「変な事じゃねえよ。実際おまえ、そう言っただろう」
 「言ってねえ!」
 「オレが一緒でもしょうがないから我慢してやるって、言っただろうが! 我慢されてまで一緒に居たくなんかねえんだよ、オレは!」
 言いながらあの時の憤りや痛みが今更ながらに甦り、サスケはナルトの手を振りほどいた。
 けれど、一瞬触れた指先の冷たさにはっとする。
 サスケ自身、雪降る街を散々歩き回って冷え切っていたのだけれど、それでもなお冷たいと感じさせる程にナルトの手は氷のようだ。
 そういえば、とサスケは今更ながらに思い当たった。
 ナルトは一体何時頃から、サスケの家の前に座り込んでいたのだろう。
 「おい、おまえ・・・・・」
 反射的に伸ばした手を、今度はナルトが振り払う。
 きっと睨み付けた瞳には、信じられないことに涙が浮かんでいた。
 「確かに言ったけど、でも!」
 呆然と見つめるサスケに向かって、ナルトは振り絞るように叫んだ。


 「そんなの本当なわけないってば! それくらい分かれってばよ、バカサスケ!」






 
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