何で、こんな日にまでこんなことしてなきゃいけないんだろう。
 サスケは、気分も重く考える。
 別に神様を信じているわけでもなければ、それにかこつけて騒ぐ奴らの尻馬に乗る気もないのだけれど。
 それでもせめて、クリスマスくらい、喧嘩をせずに過ごしてみたかった。
 ・・・・・自分のせいだと分かっちゃいるが。





 「ほんっと進歩がないわよねえ」
 「これだけ同じことばっかり繰り返せるのも、ある意味すごいことかもなあ」
 「継続は力なりって言うけど、こんなことばっかりレベルアップしても仕方ないと思うわ」
 サラウンドで響く容赦ない言葉に、サスケは耳を塞ぎたくなるのを辛うじて堪えた。
 そんな弱みを見せたら、絶対こいつらは嵩にかかって攻めてくる。
 カカシとサクラ、最近とみに思考回路が似てきたこの二人はサスケにとって最早天敵に近い。
 何より、返す言葉などこれっぽっちもないことが、サスケにひたすら沈黙を守らせた。
 何しろサスケ自身しみじみ実感していることばかりなのだ。
 「・・・ほっとけ」
 辛うじてそれだけ返すと、任務に戻る振りをして、そっとナルトを窺ってみる。
 どうやらナルトは一連のやり取りを見ていたらしく、一瞬だけ目が合うが、ぷいっと逸らされて。
 ずきりと痛む胸を、サスケはため息を吐いて誤魔化した。
 実際問題、ナルトとの喧嘩なんて、別段珍しいことでもない。
 むしろ殆どそれが常態と化していたりするわけで、しない日の方が珍しい。
 と言っても、サスケとしてはこの状況を望んでいるわけではまったくなく、むしろ反対の方向を目指して日々努力してみてはいるのだ。一応。
 けれど愛しのウスラトンカチと顔を合わせる度につるっと口から零れ出てしまう言葉は、我ながら刺があるというか、憎々しいというか、かなり短気で沸点の低いナルトを怒らせてなお、余りあるものばかりで。
 好きな相手を意識しすぎてつい意地悪をしてしまうなんて、ベタ過ぎて笑うことも出来ない。
 こんな状況じゃ、告白なんて夢のまた夢だ。はっきり言って、それどころじゃない。
 それでもまだ、普段の任務であったなら良かったのだ。
 Dランクの単純作業ばかりと言っても、それなりに体力知力を使い、チームワークが重要ポイントないつもの任務ならば。
 否応なく一緒に行動していくうちに、少々の諍いも任務が終わる頃には大抵うやむやになっているのが慣例だった。
 ペース配分の苦手なナルトが見境なしに体力もチャクラも限界まで使い切ってしまい、夕方にはすっかりエンプティ状態。喧嘩の事なんかどこか彼方に行ってしまう、という理由もあったかもしれない。(そういう単純さも愛しいし、こっそり利用させてもらってもいる)
 だけど今回は。
 とりたててチームワークが必要な任務ではないし。
 余計な思考に頭が回る程度に、体力に余裕はあるし。
 喧嘩の原因であるお互いの衣装は、嫌でも目に入るし。
 これでは、いつものように、なし崩しに流れてくれそうにない。
 頑なにこっちを見ようとしないナルトを横目で見遣って、サスケはまたもため息を吐く。
 (畜生、とっとと終わりやがれ)
 任務でなければナルトと会う機会も理由も持たないサスケ。
 貴重な逢瀬の時間に対してそんなことを考えるのは、スリーマンセル結成以来初めてだったが、これ以上この状況が続くのはいい加減辛い。
 「じゃあ、そろそろ上がろうか」
 だから、カカシの声が響いた瞬間、サスケは心底ほっとした。
 このクソ上忍の声に安堵するなんてまったく不覚、願わくば最初で最後であってほしいと願いながら。





 「ちょっと先生、何で今日に限ってこんなに早いのよ」
 サスケの心境とは裏腹に、サクラはやや不満そうにカカシを見上げた。
 不満そうというより不審そうと言うべきか。
 辺りはまだようやく夕暮れが訪れる始める頃合で、日が短いこの季節としては、確かにかなり早い刻限だ。
 とは言っても、普段なら任務が早く終わるのを歓迎しても不満を持つようなサクラではなかった筈だが。
 (何で今日に限ってグダグダ抜かしてんだ!)
 苛々と爪を噛むサスケを知ってか知らずか、カカシがのほほんと口を開く。
 「あのなあ、イブにまで任務なんてやってらんなーいとか言ってたのはおまえだろう? ちょっと気を遣ってみわたけなんだけど、一応」
 「だったら最初から言ってよね。絶対今日もいつもみたいに夜までかかると思ってたから、友達との約束全部断っちゃったじゃない。予定狂いまくりだわ」
 「家族と静かに過ごすってのもありでしょ。たまには親孝行してやんなさい」
 「あっまーい! 新婚時代カムバックとか言ってさっさと二人で出かけちゃったわよ。あの様子じゃ日付が変わらないうちに帰ってくるかも怪しいもんだわ。どーしてくれるのよ!」
 「どーするたってねえ・・・・」
 「こうなったら、ナルト!」
 「は、はいっ?!」
 「あんた今日暇よね? 誰かと会う約束なんかしてないわよね? 当然、サスケ君から誘われたりもしてないわよね」
 最後のそれは何だ。
 しかも何でそれだけ疑問形じゃないんだ。
 多少不満を覚えたが、本当のことなのでサスケは何も言えない。
 「何でサスケなんかに誘われなきゃならないんだってば」
 追い打ちのように吐かれた言葉が容赦なくサスケの胸に突き刺ささる。
 自業自得な心の傷はそろそろ回復不可能、レッドゾーンも近い。
 「オレはもう帰・・・」
 耐えかねて踵を返そうとしたところ、容赦なくカカシのブーツがサスケの足の甲を踏んづけた。
 何しやがる、と怒鳴りつけようとしてふと気がつけば、サクラもナルトに気付かれないようにサスケの服の裾を掴んで離さない。
 打合せなんてこれっぽっちもしている様子はなかったのに、この息の合い方は何なんだ。
 (こいつら、何考えてやがる)
 この二人の考えなんて、絶対ろくなものじゃないだろう。
 悪いことかと問われれば必ずそうとも言い切れないが、悪意でなければいいという問題ではなく。
 おそらく彼らの行動原理は、1%の善意と99%の愉快犯。
 それならいっそ、悪意の塊のほうがなんぼかマシだ。
 (しまった)
 サスケは今更ながらに臍を噛む。
 終了の声がかかった時、さっさと逃げるべきだった。
 「それじゃ、今日はみんなでパーティーしましょ」
 「しょうがないなあ。じゃ、責任取って場所はオレが提供するか」
 甚だ後ろ向きな考えは、この場合当たりだったらしく、似た者師弟はさらりとのたまったのだった。





 「パーティー?! うわー、オレそんなの初めてだってばよ!」
 「突発だし時間ないから、大したことは出来ないわよ。ケーキとチキン買って皆で騒ぐくらいかな」
 「それでも、すっげー楽しそうだってば!」
 「そうかそうか、よかったなあ」
 「ところで先生、今更聞くのも何だけど、私たちに付き合ってていいの? なーんにも予定はなかったわけ?」
 「本当に今更だねえ。あったら場所提供するなんて言うわけないでしょ」
 「せんせーもさびしいクリスマスだったんだってばよ」
 「ナルト、そんな本当のこと言っちゃ駄目よ」
 「・・・・・あのなあ、おまえら」
 和やかに、かつ楽しげに会話が進んでいく。
 取り残された形のサスケは、しばらく仏頂面でそれを見守っていたが、たまりかねてくるりと背を向けた。
 クリスマスパーティーなんて何の興味もないけれど、ナルトがそれで楽しいならばやってもいいんじゃないかと思う。
 けれど、自分以外にはあんなに楽しそうに話すナルトを、その間中見せ付けられるのはたまらない。
 おそらくカカシとサクラにしてみれば、これをきっかけに仲直りをしてみせろということなのだろうが、とてもじゃないがサスケにそんな自信はなかった。
 そのまま歩き出そうとした時。
 「あ、サスケ君。サスケ君の買い物分担、チキンでいい?」
 「何でオレがそんなもん買わなきゃいけないんだ」
 当然のごとくサスケも頭数に入っているサクラの口調にカチンときて、返した言葉は我ながら刺々しいものだったが。
 これまた当たり前なことに、サクラがそれくらいでメゲるわけもなく、いささかも堪えた風もなくにっこりと笑う。
 「だってみんなのパーティーなんだから、みんなで準備しなきゃ。私はケーキ買ってくし、ナルトはお菓子、カカシ先生はまず帰ってお部屋のお掃除ね」
 「そうそう、これもチームワーク。ま、ゆっくり買ってきていいぞ。他に色々準備もあるからな」
 「部屋の中のイチャパラ、全部片付けとかないといけないし?」
 「サクラ、オレを一体何だと・・・・・」
 「イチャパラ、読んでみたいってばよー」
 「・・・・・先生、絶対見つからないようにしておいてね」
 「・・・・・了解」
 「だから、オレは!」
 またしても勝手に進んでいく会話にサスケが声を荒げた時、ふとナルトと目が合った。
 けれど、今度はサスケの方が、反射的に目を逸らす。
 今日一日ですっかり見慣れてしまった自分を拒絶する表情を、これ以上見たくなくて。
 やや、ためらうような気配の後で、
 「み、みんなでパーティーだからしょうがないってば。・・・・仕方ないから、おまえが一緒でもガマンしてやるってばよ」
 ナルトには珍しく、ゆっくりと口ごもりながら吐かれた台詞。
 それは、サスケには心底嫌々ながらのものにしか聞こえなかった。
 (あいつらとは、あんなに楽しそうに話すくせに)
 カッと胸の奥が熱くなる。
 「・・・・・いらねえよ」
 「え?」
 「お情けで仲間にいれてもらう必要なんかねえ。おまえらとパーティーなんて、こっちから願い下げだ。おまえだって、オレがいない方が心置きなく楽しめるってもんだろ。利害が一致してよかったじゃねえか」
 吐き捨てるように呟いて思い切って顔を向ければ、ひどくびっくりしたように目を丸くするナルトがいた。
 その方がおまえも都合がいいだろうに、何をそんなに驚いているんだか。
 サスケは自嘲的にそう考えると、再び背を向けて今度は一気に駆け出した。
 「ちょっとサスケ君、あなたが来なくてどーすんのよ!」
 みるみる遠くなるサクラの叫びもキレイに無視して。
 取り残されたナルトが、どんな表情をしているか確かめもせずに。
 (だって、あいつはオレがダイキライなんだし)
 だから、せいせいしてるに決まってる。
 それ以外の可能性なんか、サスケには欠片も考えられなかった。





 傷つけたかもしれないなんて、思ってもみなかった。








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